ご挨拶
第44回日本分子生物学会年会 年会長 塩見 美喜子 (東京大学大学院理学系研究科) |
【年会長の挨拶 その5】
MBSJ2021Yokohamaの開幕まで、あと21日となりました。この半年間、文字どおり毎日、「国内の新型コロナ発生状況」をYahoo!JAPANで追い、ほんの僅かな数字のアップダウンにも一喜一憂してきました。この“冷や汗を伴う緊張感”(a.k.a.“毎日がロシアンルーレット”)は12月3日の夕方まで続くのかと思うと、早く終わって開放されたいような、一方では、発生状況の低空飛行が数ヶ月持続するのを見届けてから始まってほしいような、で、心中、非常に複雑です。分生の横浜年会は今年で10回目。「横浜ヒストリア」企画の一環として、9名の歴代横浜年会長へのインタビューを進めて参りました。その内容は現在、小冊子にまとめつつあり、年会中に配布予定ですが、今回の様な“負の緊張感”を伴った年会準備をご経験された先生は皆無であったろうと察します。塩見さんは貧乏くじを引いた? そうかもしれません。一方、このような過酷な状況下にあっても、事前登録者数は我々の期待を大きく上まわり4,200に到達、シンポジウム、ワークショップ、フォーラムはそれぞれ27、90、14、そして一般ポスター演題は2,455、高校生の発表も25演題と例年には及ばずとも負けず劣らずの範疇に収まり、これは、ひとえにMBSJ会員の(そして非会員の)皆様の、横浜年会に参加したい、発表したい、議論したい、そして仲間に会いたい、という強い気持ちの表れであると、心より感謝せずにはいられません。そして、一足早いですが、コロナ禍で年会準備をここまで牽引して下さった組織委員の先生方、感染安全対策委員の嘉糠先生、エー・イー企画とMBSJ事務局の皆様、そしてご支援賜る多くの関連企業の方々に、心より感謝致します。目下、11月17日から始まる「当日参加登録者数」の伸びが気になるところです。新型コロナ発生状況に左右されることは必至で、よって私の“毎日がロシアンルーレット”はあと3週間続きますが、それに耐えるだけの体力と精神力は温存する所存です。
東京近辺で緊急事態宣言が解かれ、はや1ヶ月余りが経とうとしています。街行く人々はまだマスク姿ではあるものの、マスクを頭の中でバーチャルに消し去って見ると、コロナ騒動があったなんて思えないくらい、人々は楽しそうに、忙しそうに街中を行き交っています。11月に入り少しずつ目立つのは、キャリーケースを引く、あるいは結婚式の引き出物袋をもった人々。朝採れ野菜の市場に行ってみると、ソーシャルディスタンスは数十センチ程度、街中のグロッサリーストアのレジにある足跡シールに、あれ?これって何の意味があるんだっけ?と、一瞬、記憶を辿らせるのは私だけでしょうか。東京駅近くの行幸通りは、ワクチン接種会場と化して久しいですが、最近は、案内人さん達もとても暇そうに見えます。目が合うと「接種いかがですか?良いワクチンがありますよ!」と勧誘されそうで、それを避けるために下をむきつつ通り去る今日この頃です。ワクチンも十分保管されている様子、3回目を打つなら(確かな効果があるなら)早く始めたら良いのにと思いますが、世界を先取ることが苦手な我が国のお偉方は、他国の様子を今なお覗っているのでしょうか。
世界を先取ることが苦手といえば、Biologyの世界も然り。日本は「適合性」を重んじるより「多様性」を促進しようね、と言われて久しく、日本の科学基盤の近代化は遅れているからフットワークを軽くして早くどうにかしなさい、という意見も聞こえてきます。今年10月、ノーベル物理学賞を受賞された米国在住の眞鍋淑郎博士は、好奇心に満ちた基礎研究の支援と学問の自由の重要性を日本政府に進言しました。一方、日本の国際的研究ランキングは10位へと下落し、我が国の科学技術立国としての立ち位置は不安定さを増しています。我が国のサイエンスの生き残りを賭けた、そしてそれを担う有能な次世代科学者の育成のため、今、新たな視点からの科学政策改革と研究インフラ整備が必要です (Sheng et al. Nature in press)。そこで急遽、緊急フォーラム「我が国の研究基盤の活性化への挑戦」– 次世代の研究者のためにどのような科学政策と研究インフラ整備が必要かを考える– を企画しました(初日19:15~)。お時間が許す限りご来場いただき、多数のご意見を賜れますと幸甚です。あれ、塩見さんは同時刻開催の「EMBO-MBSJ 合同フォーラム:EU留学と若手キャリアアップ」のオーガナイザーでは? はい、その通りです。浮気はしない主義ですので緊急フォーラムには参りません。が、いただきました貴重なご意見は明文化しパブリサイズする策を練りつつあるところです。
12月1-3日、横浜で、会いましょう!
2021年11月
【年会長の挨拶 その4】
東京オリンピック2020も終了し、MBSJ2021Yokohama開催まで残すところ100日余りとなりました。現在、新型ウイルスのデルタ株が猛威を振るい、全国の感染者数が増大の一途を辿っています。一方、国内外の動向をみておりますと、カンヌ国際映画祭やMETガラといった大型イベントに加え、フランスなどではレストランで食事をするにも新型コロナワクチン接種証明書の提示が求められつつあります。コロナ禍でのイベント開催の新しい在り方が模索される中、MBSJ2021年会組織委員会としましても、真剣に、そして具体的に会期中の感染対策を考える段階に来ています。さて、過日(8月10日)、分子生物学会会員にメール配信されたところではありますが、この度、東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸教授に「感染対策アドバイザー」としてご参画いただくこととなりました。嘉糠教授は、昨年暮れの日本レコード大賞など、様々な場面で感染対策を監修されたご経験があり、この上ない心強さを感じています。
MBSJ2021は、分子生物学会として初出となる“ハイブリッド形式”で開催されます。現在も進行中の参加登録及び演題投稿時のアンケートからは、現地参加は例年の5-6割、つまり4,000強の人々が横浜パシフィコに集うと見込まれています。未定という回答も多数あるため、今後、感染状況によっては、会期が近づくにつれて参加者がさらに増加することも十分考えられます。現地で最先端の科学を議論したいという参加者の強い望みを叶えつつ、「より安心・安全な年会」を開催するには何をすべきか。目下、感染対策アドバイザーと組織委員会で色々模索しているところです。この規模において「感染数をゼロに」という目標を掲げることは不合理であると断念。一方、アイデアの一つとして挙がっているのは、ワクチン接種証明書またはPCR陰性証明書を提示できる現地参加者には「安心パスポート(仮名)」なるものを発行し、ネームカードと共に常に“見える化”していただくというもの。ワクチン接種は新型コロナウイルス感染を完全に抑止しませんが、重症化は免れることができそうです。加えて、これら証明書が無い参加者のために、会場での新型コロナウイルス検査サービスを会期中に提供することを鋭意検討中です。現地参加希望者にとって“合理的”と納得していただけるルールのもと、安心して科学を生で議論できる“より安心・安全な”年会開催を皆様と共に実現して参りたいと思います。
2021年8月
【年会長の挨拶 その3】
今年の桜は例年より少し早く(少なくとも東京では)、満開の花は新型コロナで気疲れした心を和ませてくれましたが、それも束の間、例年の如く駆け足で、薄桜色の街並みは新緑色へと移り変わりました。それと並行して我々は、公募シンポジウムとワークショップ合わせて110件を採択し、会期3日間の日程表を組みました。本年会では、午後のオーラルセッションとして135分枠に加え90分枠x2を設けたため、企画数が例年より多く、正直、これらが我々の期待通り埋まるか否かが懸念されましたが、それも徒労に終わり、ほっと安堵しているところです。フォーラム公募も4月末に締め切り、会期日程表に組み入れました。会員の皆様におかれましては、時流に沿った、素晴らしい企画を多数申請していただきまして、誠に有難うございました。7月1日にはいよいよ演題登録期間が始まります。皆様からの積極的な登録をお待ち致します。
新型コロナの感染者数は、他国から比べるとそれほど悲惨ではないのかもしれません。昨日の日本の新規感染者数は5,816、一方、インドのそれは267,000強、実数はこの数十倍という説もあります。人口母集団の違いはあるにせよ、桁が違います。が、それでも連日余さず、昼夜を問わず、感染者数や医療現場の逼迫状況、変異型の浸透状況などを聞かされると、半年ほど先ではあるものの、無事に横浜年会を開催できるのかと不安を覚えない日はありません。住処が外苑から徒歩圏内にある私にとっては狂気の沙汰でしかないのですが、東京オリンピック2020は断行する模様。その一方、国内のワクチン接種は、世界に比べ大幅に遅れています。数日前に受け取ったフィラデルフィア市に住む知人からのメールには、市民へのワクチン供給量は充分確保されており、12歳になるお子さんもshotを受けた、とありました。6月11日にはソーシャルディスタンス、マスク着用義務も医療従事者などを除いては解除されるそうです。我が国の大幅な遅れの原因が何なのかはわかりませんが、我々年会の成功も、ワクチン接種率に左右されるのかと思うとやりきれない気持ちです。mRNAワクチン。何を、どこに、どれだけ打てば良いのか、分子生物学研究者として十分理解していても、正常な“翻訳システム”も“免疫システム”も備えた身体を持っていても、区役所からの接種券を指をくわえて待つしかないとは、何と無情なことでしょう。そういえば、ラボのフリーザーにはin vitro転写反応キットが常備されています。ピペットマンの使い方も忘れていません。いっそのこと、10年ぶりにベンチに立って反応でも仕掛けようか、な (5月末日)。
2021年5月
【年会長の挨拶 その2】
新型コロナ感染は収まる兆しもなく、それでも例年のごとく新年は明けました。会員の皆様におかれましては、どの様な新年を過ごされたのでしょうか。東京は晴天に恵まれ、空を見上げると綺麗な青色が目に飛び込んできます。都心の新年は大体こんな感じでしょうか。しかし、今年の空の青さは心なしか明るく、透明度が一層高い気がします。新型コロナでテレワークが増え、CO2の放出も控えめとなり、その“結果”なのかもしれません。毎日の生活や行動に制約がかかるのは辛いですが、良い面もあるものだと思う今日この頃です。とはいっても医療崩壊も危ぶまれる中、健康には十分留意してお過ごしください。
さて、covid-19パンデミックをよそ目に「MBSJ 2021 YOKOHAMA」へのカウントダウンも着々と刻まれています。年会ウェブサイトも立ち上がり(https://www2.aeplan.co.jp/mbsj2021/)、シンポジウム・ワークショップの公募もすでに始まっています(フォーラムは3月より企画公募を受付予定)。シンポジウム・ワークショップ・フォーラムには、その時々のサイエンスの時流が大きく反映され、各年会に特色をもたせます。皆様からの積極的な、魅力的な企画投稿をお待ち致します。2021年会はMBSJ初のオンサイト+オンライン ハイブリッド形式。企画もその形式に沿って提案していただくことになりますが、如何せん前例がなく戸惑いを感じる会員も多いと思います。公募の締切は準備の都合上、2月26日(フォーラムは4月30日)に設定致しましたが、企画内容に関しましては今後の状況に応じて柔軟に対応させていただく所存です。
年会特別企画である「横浜ヒストリア」に関しては前回の会報でお知らせ致しました。今回は、「富澤基金メモリアル」に関するお知らせです。富澤純一先生は日本の分子生物学の黎明期においてColE1 plasmidの複製に関する研究を進め、これが非コードRNA(RNA I)によって制御されていることを発見されました(PNAS 1981; Cell 1984)。今、非コードRNAを知らない人は皆無でしょうが、富澤先生によるRNA Iの発見および機能理解はその最初のものとして知られます。優秀な、しかし独立して間もないといった理由で経済支援を必要とする若手研究者を、使途の制約に縛られることなくサポートする「富澤純一・桂子基金」は2011年に発足しましたが、多方に惜しまれつつ2020年に幕を閉じました。私は初代審査員の一人として富澤先生ご列席のもと面接などに携わらせていただきましたが、富澤先生の生命科学研究への深い思い、そしてそれを担う若手教育への情熱には敬服するばかりです。
2021年1月
【年会長の挨拶 その1】
第44回日本分子生物学会(MBSJ)年会は、3年ぶり、パシフィコ横浜での開催です。パシフィコ横浜はMBSJ年会の主会場の一つであり、老若男女を問わず多くのMBSJ会員にとって何気に、“人知れず心待ちにする久方ぶりの帰省”のような感じなのではないかと察します。最初の横浜年会は22年前、1998年に開催されました(第21回年会:吉田光昭年会長)。キャッチフレーズは「時代を先取りした“みなと”横浜での年会」。成長期真っ只中のMBSJに新しい息吹をもたらそうという気鋭、未来を見つめるポジティブな視点が感じられます。その後は、神戸や福岡を挟みつつ数年おきに開催され、2021年の本年会はちょうど10回目の横浜年会に相当します。これは学会として一つの大きな節目であり、特別な年会といえるでしょう。さて、ここで会員の皆様へ重大アナウンスがあります。実は、第44回年会はMBSJの「最後の横浜年会」となります(正確には余程の裏技を使わない限りという限定付き。“余程の裏技”の正体は知る人ぞ知るといったところでしょうか)。つまり、本年会は、特別な年会であることに変わりはありませんが、その意味合いは変貌を遂げることとなりました。このような特殊事情のもと、年会の準備そして実施を仰せつかった組織委員の士気高揚は半端ありません。来年12月であっても新型コロナ禍の影響は排除しきれないだろうという見解から、切望する完全オンサイト形式は諦めざるを得ない状況にあります。「窮即変、変即通」。幸いにも、オンサイトを基軸としたオンライン-プラス形式での開催は、他学会の成功例もちらほら聞こえてくる環境下で、ほぼ見通せる状態になってきています。“未発表データをもとに熱く議論する”という基本理念を守りつつ「MBSJ FES 2021 in Yokohama」と密かに銘打ち、これまで以上に活気に満ちた、実りのあるcommemorativeな年会になることを願っています。皆様の積極的な御参加、並びに厚い御支援をよろしくお願申し上げます。
2020年11月