特別展示企画
特別企画 「ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)
- バイオリソース勢ぞろい」
主 催:NBRP広報室
後 援:文部科学省、第44回日本分子生物学会年会
日時:令和3年12月1日(水)~12月3日(金)
会場:パシフィコ横浜展示ホールA, B, C 1F
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)を中心に国内で進められているさまざまなバイオリソース関連事業が集結しました。一部のリソースについては、実物展示や専門家による解説や質問の受付なども行なっていますので、どうぞお気軽にお立ち寄りください。
NBRP事業は文部科学省の支援を受けて運営されています。ライフサイエンス分野における基礎研究を支えるとともに医療・健康面の応用研究にも貢献できるバイオリソースを目指して参ります。
実物つきパネル展示「バイオリソース勢ぞろい」
日時:2021年12月1日(水)~12月3日(金)
会場:パシフィコ横浜展示ホールA,B,C 1F
- NBRP「ラット」:様々な研究に役立つ世界最高水準のラットリソースのご紹介
椛嶋 克哉1、守田 昂太郎1、成瀬 智恵1、Birger Voigt1、中西 聡1、崔 宗虎1、森田 健斗1、笹岡 佳生1、皐月 京子1、本多 新2、真下 知士3、吉木 淳4、浅野 雅秀1
(1:京都大・院医・附属動物実験施設、2: 自治医大・医・先端医療技術開発センター、3:東京大・医科研・実験動物研究施設、4:理研BRC・実験動物開発室)発表要旨
NBRP「ラット」は、2002年の第1期よりラットリソースの収集・保存・提供の事業を開始し、現在では世界最大規模のラットリソースセンターに成長しています。疾患モデルとしての近交系ラット、蛍光やルシフェラーゼを発現するレポーターラット、重症免疫不全ラット、Cre及びfloxラット、光遺伝学用のラットなど、800近い系統の中から様々な研究に役立つラットを検索し、ラットの特性を生かした研究に利用することができます。最近では、ゲノム編集によるKO/KIラットも増えています。第4期NBRP「ラット」では、ラットリソースの効率的な運用に不可欠な生殖工学技術の開発を重点的に進めており、得られた成果は研修による普及を図っています。研修では、体外受精や高効率なKO/KIラット作製などの技術を習得できます。ラットの寄託は無料で受け付けており、提供は実費を負担していただきます。皆様のご利用をお待ちしております。
- NBRP「ニホンザル」:ナショナルバイオリソースプロジェクト「ニホンザル」の紹介
中村 克樹1、南部 篤2、磯田 昌岐2、今井 啓雄1、大石 高生1、東濃 篤徳1、浜井 美弥1
(1:京都大・霊長研、2:生理研)発表要旨
ニホンザルはヒトとの近縁性から、脳神経科学、感染・免疫学、再生医療、BMI、遺伝子治療など多様な先端医療技術に寄与する生命科学研究に用いられる実験用モデル動物、オナガザル亜科マカカ属の一種である。日本では優れた認知・学習能力と穏やかな気質を活かし、複雑なタスク習得を必要とする高次脳機能研究に用いられることが多く、精神・神経疾患の病態解明・治療法開発などに貢献し続けている。
NBRP「ニホンザル」は2002年度発足以来、自然科学研究機構生理学研究所と京都大学霊長類研究所の協力のもと、日本固有種であるニホンザルの繁殖育成体制を整備し、病原微生物学的に安全で、馴化の進んだ研究用個体として安定的に提供することを目的に推進されてきた。2020年度末までに国内35の大学・研究機関に927頭を提供する実績を上げている。本発表ではこれまでの事業を総括し、提供個体が貢献した最新研究成果を紹介するとともに、今後の展望について報告する。 - NBRP「大型類人猿情報ネットワーク(GAIN)」:大型類人猿の非侵襲的試料の研究利用
綿貫 宏史朗1、松崎 里絵子1、今井 啓雄2、西村 剛2、伊藤 毅2、今村 公紀2、伊谷 原一1
(1:京都大・野生動物、2:京都大・霊長研)発表要旨
ヒトに近縁な類人猿(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、テナガザル)との比較により、ヒトの進化や生物学的特徴がより深く理解され、疾病の病態解明・創薬開発等の医療分野への応用にもつながる。類人猿は全種が絶滅危惧種であるため海外からの新規導入はきわめて困難であり、国内の動物園・研究施設等で飼育される個体は、種の保存や学術研究の観点からも非常に貴重な日本の生物資源といえる。本事業は、国内飼育下類人猿に関する情報を収集・管理し、リアルタイム個体情報データベース http://www.shigen.nig.ac.jp/gain/ にて発信している。さらに、さまざまな倫理的配慮も必要な類人猿を対象とした非侵襲的学術研究の推進として、主に遺体由来試料の利活用システムの構築に取り組んできた。由来が明確で新鮮な試料の提供方法として、京都大学霊長類研究所の管理運営による共同利用・共同研究拠点制度を活用している。本展示では当事業の概要や研究事例について紹介し、利用登録や申請方法について解説する。
- NBRP「ニワトリ・ウズラ」:鳥類を代表するバイオリソース
西島 謙一1、鈴木 孝幸1、松田 洋一1、村井 篤嗣1、山縣 高宏1、一柳 健司1、吉村 崇2
(1:名古屋大・院生命農学、2:名古屋大・トランスフォーマティブ生命分子研)発表要旨
ニワトリ・ウズラは、現存する約9,600種の鳥類を代表するモデル動物として、ライフサイエンス研究に不可欠な生物資源である。ゲノム配列も決定され今後ますますその重要性を増していくことが期待される。防疫上の理由から海外鳥類リソースの移入は制限されており、我が国の既存鳥類リソース保全と新規系統育成が不可欠である。NBRP「ニワトリ・ウズラ」では、名古屋大学鳥類バイオサイエンス研究センターが中核的拠点を形成し、質・量ともに世界最高水準のニワトリ・ウズラリソースの保存と育成及び安定供給を実現することによって、鳥類を用いたライフサイエンス研究の基盤を補完し、研究者コミュニティへのさらなる貢献を目指している。貴重な近交系ニワトリやShhシグナル不全により多指等様々な異常が起きるウズラHMM系統、ユビキタスに蛍光を発するトランスジェニックニワトリ・ウズラ等を種卵・ゲノム・生体などの形で提供している。(https://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~nbrp/)
- NBRP「病原真核微生物」:真菌、放線菌、原虫の保存、提供
矢口 貴志1、伴 さやか1、金子 修2、風間 真2
(1:千葉大・真菌医学研究センター、2:長崎大・熱帯医学研究所・生物資源室)発表要旨
本プロジェクトでは、今後起こりうる感染症に対応可能な病原真核微生物株のコレクションの構築を目的としている。医療機関との連携、研究者からの寄託により、真菌・原虫の提供を受け、菌株および臨床情報とともにデータベースにまとめ公開・提供している。また、ゲノム情報などの整備によって、より付加価値の高いリソースの整備に努めている。
千葉大では、国内では病原真菌を専門に扱う唯一の保存機関として、深在性真菌症原因菌、白癬菌、抗真菌薬耐性菌、病原放線菌を保存・提供している。特に直近5年間に臨床検体から分離された菌株は、新規薬剤の評価、感染症の動向に関する研究に使用され需要が高い。
長崎大では、トリパノソーマ、マラリア原虫等の病原性原虫を取り扱い、国内最大の病原性原虫株の提供機関として、原虫感染症に関する研究、医学部学生実習用などの目的の提供している。 - NBRP「病原細菌」の活動
林 将大1、飯田 哲也2、富田 治芳3、谷本 弘一3、江崎 孝行1、田中 香お里1
(1:岐阜大・高等研究院・微生物遺伝資源保存センター、2:大阪大・微研・病原微生物資源室、3:群馬大・医・附属薬剤耐性菌実験施設)発表要旨
病原細菌は、日々、医療機関で患者検体から多数分離されていますが、診断、治療が終われば、その大半は廃棄されます。しかしながら、感染症の機序、治療、効率的な診断法開発等の研究を目的として何れかの病原細菌やその関連細菌を入手したいと思ったとき、必要な病原菌種を研究者自らが確保するのは、多くの場合、困難です。NBRP病原細菌では、医療や生命科学領域の研究・開発資源としての病原細菌の収集・保全・分譲を行っています。リソースの特性として、時に生命を脅かす病原体を取り扱うことから、法令を遵守した維持・管理を行っており、ユーザーの方々も生菌を利用する際には法令に従う必要があります。当リソースでは、法令の基準を満たさない施設の研究者でも利用可能な病原菌遺伝子の提供も行っています。また、資源保全として、病原細菌の研究を行ってきた研究者が離職のため維持が困難になったコレクションの受入も行っています。
- NBRP「細胞性粘菌」:細胞性粘菌 〜多様な研究分野で利用されるモデル生物〜
上村 陽一郎1、桑山 秀一2、上田 昌宏1
(1:理研・BDR、2:筑波大・生命環境)発表要旨
真核生物である細胞性粘菌は、情報基盤・技術基盤・リソースが揃ったモデル生物として世界的に利用されています。細胞性粘菌は餌であるバクテリアを捕食し分裂増殖する単細胞期と、栄養飢餓を契機とする子実体形成過程の多細胞期を行き来するユニークな生活環を持ちます。粘菌はこれまでに細胞運動、接着、ファゴサイトーシス、走化性、分化、パターン形成など基礎科学の研究分野で利用されてきました。近年では、多彩な天然薬理活性物質をもつ創薬資源としても注目されています。細胞性粘菌は遺伝子破壊や形質転換が容易で、細胞生物、生化学的解析法も確立しています。また、粘菌の全ゲノム配列はデータベース(http://www.dictybase.org)として公開されています。NBRP細胞性粘菌では細胞株リソースとDNAリソースをホームページ(https://nenkin.nbrp.jp)から簡単に検索、注文できるサービスを提供しています。また、新規ユーザーへの講習会も実施しており、ローコストで参入可能なモデル生物となっています。是非ブースで実物をご覧ください。
- NBRP 「メダカ」:メダカ先導的バイオリソースの拠点形成
成瀬 清1、松田 勝2、岩波 礼将2、佐藤 忠1
(1:基生研・バイオリソース研究室、2:宇都宮大・バイオサイエンス教育研究センター)発表要旨
メダカは日本で開発された実験動物で、近交系も樹立されています。小型魚類のモデルとしてよく利用されるゼブラフィッシュと同様に、体外受精で胚が透明、短い世代時間、多様なゲノム情報が利用でき、遺伝子導入やゲノム編集も容易です。また、メダカはゼブラフィッシュと比較して、ゲノムサイズが約半分で、魚類のゲノムとして標準的で祖先的なゲノム構造を保持しています。また、より広い温度範囲や塩分環境で生存できるなど、ゼブラフィシュとは異なる特性もあります。日本各地から採集された野生集団やインドや東南アジアに生息する近縁種もNBRP Medakaから提供されています。
近年、Organoidsにより発生過程の模倣が可能であること、メダカ属の起源はインド亜大陸にあり、セトナイメダカは7,400万間生存してきたことが、この種を含むメダカ近縁種の系統解析により示されました。新たなノックイン手法も続々と開発されて、研究に利用できるようになってきています。 - IBBP:研究サンプルのバックアップ保管
望月 由子1、上坂 一馬2、浜谷 綾子3、田中 文子3、加藤 愛3、成瀬 清3
(1:東京大学・理学系研究科生物科学専攻、2:名古屋大学・遺伝子実験施設、3:基礎生物学研究所・IBBPセンター)発表要旨
研究サンプルの保管は万全ですか?
台風や地震などによる停電・断水、突然のフリーザー故障、うっかり廃棄…身近に起こるアクシデントから、IBBPは『あなたの』研究サンプルを守ります。
基礎生物学研究所IBBPセンターでは、以下の事業を通して安定した研究活動を支援ししています。
1.研究サンプルのバックアップ保管:
保管費用は無料です。研究途上のサンプルを非公開で保管できます。 保管可能なサンプル:動物(精子・胚・受精卵)、植物(種子・組織)、微生物、培養細胞、遺伝子、タンパク質☆保管利用は《IBBP-easy》からお申込みいただけます。 2.新規保存技術開発(共同利用研究)
超低温保存方法が確立していない研究サンプルの新規保存技術開発を目的とした、共同利用研究を推進しています。 3.Cryopresevation Conference(クラカン)
研究サンプルの長期保存技術とメカニズムについて、幅広い分野の研究者による活発な議論が交わされる研究集会で、毎年11月頃に開催しています。ご興味のある方は是非、ご参加ください。 - NBRP「酵母」:酵母遺伝資源の戦略的収集、保存および提供
中村 太郎1,2、北村 憲司3、杉山 峰崇4
(1:大阪市立大・院理、2:大阪市立大・複合先端、3:広島大・自然科学研究セ、4:広島工業大学・生命)発表要旨
酵母は真核細胞の究極のモデルとして、さまざまな生命現象の解明やバイオテクノロジーに大きく貢献している。NBRP酵母では、基礎研究で用いられる分裂酵母S. pombeと出芽酵母S. cerevisiaeの2つの酵母を中心に(他の酵母もあり)、菌株やDNAの収集・保存・提供を行うとともに、効率的な提供をサポートするデータベースやオーダーシステムを構築している。現在、菌株は、分裂酵母、出芽酵母いずれも約3万株、DNAクローンは合わせて約10万保有している。リソースの提供は、2020年度は約4000件で、提供先も日本だけでなく海外が約4割を占め、国際的なリソースセンターとしての役割を果たしている。NBRP酵母から提供されたリソースを使って発表された学術論文はこれまで約800報以上になり、Natureをはじめとするハイレベルな国際誌がほとんどである。ここでは、NBRP酵母の事業の具体的なサービスと最近寄託された旬のリソースについて紹介したい。
- NBRP「情報センター」:バイオリソース情報の新たな基盤構築を目指して-NBRP情報センターのサービス紹介
川本 祥子、木村 学、渡邉 融、土屋 里枝、渡辺 拓貴、庄司 健人、古山 朋樹、坂庭 美春、矢口 美咲希、佐賀 正和、鈴木 栄美子、木村 紀子
(遺伝研・生物遺伝資源センター)発表要旨
ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)情報センターは、バイオリソース(生物遺伝資源)に関するデータベース構築や、研究者がリソースを入手するためのWebサイトの構築等を専門に担当しています。また、利用者の成果を集めた論文データベースRRCを構築し、研究動向の調査や事業の評価に活用されています。一般的に、研究者は自身の研究課題の中では、1種か多くても2種の生物を研究対象としていますが、ゲノム科学の発展を背景に、種を横断する情報の俯瞰が重要になってきています。現状のリソースデータベースは生物種毎に独自のフォーマットで記載されていますが、情報センターでは理研BRC、DBCLS、NITE他と共同し、リソースに関するメタデータの共通化を図るためのオントロジーBRSO(Biological Rresource Schema Ontology)を開発し、データのLOD(Linked Open Data)に取り組んでいます。これにより、リソースからWeb上にある様々な情報・知識へのリンクを張り巡らせ、リソースにおけるデータサイエンスの基盤の構築を目指します。
- NBRP「研究用ヒト臍帯血細胞」:最も若いNaïve ヒト血液細胞の魅力
長村 登紀子1、中村 幸夫2
(1:東京大・医科研、2:理研BRC・細胞材料開発室)発表要旨
臍帯血は、胎児由来血液で最も未分化な造血幹細胞を豊富に含むとともに、種々の免疫細胞や組織幹細胞などを含み、白血病などの難治性血液疾患に造血幹細胞移植のソースとして臨床応用されています。また、再生医療、創薬研究、NKTやCAR-T/NK細胞等を含む免疫細胞療法、免疫学研究、EBウイルスやヘルペスウイルス等の感染症研究、ゲノム解析を含む遺伝学研究、環境に暴露されていない細胞として環境医学研究、iPS細胞樹立等のために、老化のない最も若い細胞として広く医学研究や生物学分野で利用が進められています。本事業は、採取施設にて母親より同意を得て採取後、匿名化後に東京大学医科学研究所にて種々の細胞試料として調製凍結し、理化学研究所バイオリソース研究センターを通じて、「医学の発展」を目指した研究を進めている国内外(企業を含む)の研究者に提供しています。種々の凍結臍帯血を研究者に提供しています。
- NBRP「ヒト・動物細胞」:細胞バンク事業
中村 幸夫、他室員一同
(理研BRC・細胞材料開発室)発表要旨
理化学研究所バイオリソース研究センター細胞材料開発室(理研細胞バンク)は、1984年に発足した前身の理研ジーンバンク以来、40年近くにわたって細胞バンク事業を実施している。発足当初から細胞バンク事業の中心的対象であったヒトがん細胞株は、現在でも提供の中心を占める汎用細胞である。一方で、20世紀終盤の遺伝子機能解析研究を飛躍的に発展させたマウスES細胞、その後に開発されたヒトES細胞も、研究コミュニティの大きなニーズとなっている。さらには、今世紀に入って日本人研究者(山中伸弥博士)によって開発されたiPS細胞は、生命医科学研究分野にイノベーションをもたらしている。特に、疾患者由来のiPS細胞(疾患特異的iPS細胞)は、そこから誘導した細胞を『疾患モデル細胞』として活用することで、難治性疾患を含めた様々な疾患の基礎研究を大きく発展させている。また、そうした『疾患モデル細胞』を活用した創薬研究も多くの成果を産み出し始めている。
- NBRP「遺伝子材料」:信頼できるDNAリソースで素晴らしい研究結果を!
三輪 佳宏、飯田 哲史、岸川 昭太郎、久次米 夕佳里、栗原 千登勢、酒寄 めぐみ、笹沼 俊一、谷川 由希子、中島 謙一、中出 浩司、中村 宣篤、長谷川 聡、益﨑 智子、村田 武英
(理研BRC・遺伝子材料開発室)発表要旨
遺伝子材料開発室 (DNA Bank)では、以下のようなヒト/動物/微生物由来の遺伝子材料を国内外から毎年1000クローン以上寄託を受け、新しい保有リソースがどんどん増えています。
・全遺伝子の8割をカバーするヒト完全長cDNA
・様々な蛍光タンパク質およびそれらを応用したイメージングリソース
・遺伝子改変技術として日々進歩を遂げているCRISPR-Cas9リソース群
・導入効率の高い各種レンチウイルスベクター
・マウス/ラットゲノムBACライブラリー、マウス/微生物ゲノムDNA
これらを、厳密な品質管理の上で研究者に提供しています。
プラスミドクローン、BACクローンの提供手数料(学術機関の学術研究目的の場合)は、1クローン¥8,440+輸送費です。
論文発表前に寄託し、カタログ番号を論文中に記載すれば、発表と同時に提供スタートも可能。世界中の研究者にすぐ使ってもらえて文献がどんどん引用されます。
必要なリソースが登録されていないか、まず、「理研BRC」で検索を! - NBRP「ヒト病原ウイルス」:ナショナルバイオリソースプロジェクト「ヒト病原ウイルス」の紹介
三輪 佳宏1、澤 洋文2、川口 寧3、小林 剛4、安田 二朗5
(1:理研BRC・遺伝子材料開発室、2:北海道大・人獣国際研、3:東京大・医科研、4:大阪大・微研、5:長崎大・感染症拠点/熱研)発表要旨
ヒトに病原性をもつウイルスは数百種と言われており、現在も新興感染症の病原体として新たなウイルスが同定されています。同種のウイルスでも、増殖する動物種・臓器・組織・細胞特異性や病原性、抗原性など性状の異なる株が多数存在しており、ウイルス感染症の克服には、多種多様なウイルス株を用いた増殖機構や病態発現機構の解明、ワクチンや治療薬の開発などが必要です。
NBRPヒト病原ウイルスでは、長崎大学、北海道大学、東京大学、大阪大学、理化学研究所がそれぞれアルボウイルスおよび高病原性ウイルス、インフルエンザウイルス等の人獣共通感染症のウイルス、ヘルペスウイルス、消化器系ウイルス、ウイルス遺伝子(cDNA)クローンを担当し、ウイルス株およびウイルス遺伝子クローンの収集・作製・保管・バックアップ・品質管理・提供を行う拠点の整備を進めています。また、国内の他の大学・研究機関等で保管されているウイルスに関するデータベース(保有機関、ウイルス種、株の情報など)の作成も進め、ウイルスリソースが広く活用されるよう利用者の利便性の向上も目指します。 - NBRP 「実験動物マウス」:遺伝子機能解明と疾患克服のためのモデル動物
吉木 淳1、中田 初美1、橋本 知美1、池 郁生1、平岩 典子1、仲柴 俊昭1、綾部 信哉1、水野 沙織1、持田 慶司2、小倉 淳郎2、小幡 裕一3、城石 俊彦4
(1:理研BRC・実験動物開発室、2:理研BRC・遺伝工学基盤技術室、3:理研BRC・特別顧問、4:理研BRC・センター長)発表要旨
理研BRC/NBRP実験動物マウスは、わが国のマウス中核機関として、北米・ジャクソン研究所/MMRRC、欧州・EMMAと並び、マウスリソースの世界3大拠点の一つとして認知されている。次世代アルツハイマー病モデル、iPS関連系統、オートファジー関連系統、PD-1関連系統等、ノーベル賞受賞研究の成果を含む我が国独自のマウス系統を収集し国内外累計1,544機関の7,602名の研究者にマウスを提供している。優れた利用者成果として論文1,050件と特許41件が創出されている。厳格な品質管理によりライフサイエンス研究の再現性の確保に努めている。新型コロナウイルス感染症、超高齢社会、ゲノム医療・精密医療の社会・研究ニーズを念頭に「高次生命現象の理解・人の健康増進と病気克服」をテーマに、ウイルス感染症研究への対応を強化し、難治性疾患や加齢性疾患の高精度医療モデルと基礎生命科学研究に有用なマウス系統を拡充する計画である。
- 理研BRC「日本マウスクリニック」-あなたのマウスお調べします-
田村 勝、澁谷 仁寿、三浦 郁生、山田 郁子、古瀬 民生
(理研BRC マウス表現型解析開発チーム)発表要旨
CRISPR-Cas9などのゲノム編集技術の台頭により、遺伝子ノックアウトマウスやヒト疾患の原因/候補変異を導入したノックインマウスが容易に、かつ短時間で作製できるようになってきました。このような状況下において、遺伝子改変マウスにおける表現型解析の重要性は益々増してきており、またその高精度化と高効率化が求められています。理研BRCでは哺乳類の遺伝子機能解明とヒト疾患病態の総合理解を目指し、遺伝子改変マウスの表現型を国際標準解析手法により網羅的に解析する"日本マウスクリニック (JMC)"を実施しています。またJMCには、体系的に表現型情報を取得できる複数の表現型解析パイプラインを整備し、それらを研究コミュニティー提供して国内研究基盤の強化に貢献する狙いもあります。今回の発表では我々が整備した複数の表現型解析パイプラインとJMCの活動について紹介します。
- NBRP「ゾウリムシ」:ゾウリムシリソースの特徴と活用例
橘 理人、大濵 三紗子、村上 理子、藤島 政博
(山口大学 共同獣医学部 NBRPゾウリムシ研究室)発表要旨
ゾウリムシ属は繊毛虫門に属する単細胞の原生生物で、培養や顕微操作が容易なことから、真核細胞のモデル的生物として様々な基礎研究(老化、細胞内共生、感染防御、繊毛運動、二核性、核分化過程でのゲノムの再編、細胞分裂、性的細胞認識、逸脱コドン、食細胞活動、概日時計、浸透圧調節、環境適応、走性、イオンチャネル、学習、水質浄化など)に利用されています。代表機関の山口大学では、世界最大規模の24種を保存すると共に、国際標準となる高品質のゾウリムシリソースの整備を目指して、標準株と利用推奨株の整備、凍結保存技術の開発による特定株の安定供給を可能にしました。また、株情報(シンジェン、接合型、採集地、表現型の特徴、成果論文)のweb公開、受注後1週間以内の株の発送、定期技術講習会の開催、関連学会での生細胞の展示等を実施してゾウリムシリソースの普及に努めています。
- NBRP「原核生物(大腸菌・枯草菌)」:原核生物(大腸菌・枯草菌)のバイオリソース
秋山 光市郎、岡本 尚、矢野 晃一、三宅 裕可里、仁木 宏典
(遺伝研)発表要旨
NBRP「原核生物(大腸菌・枯草菌)」では、基礎研究用の大腸菌及び枯草菌リソースを国内外から収集・保存し、要望に応じてユーザーへの分譲を行なっています。収集リソースは菌株に加えてプラスミドベクターやバクテリオファージ、抗体まで多岐にわたり、様々な研究ニーズにお応えします。特に大腸菌の遺伝子欠損株ライブラリのKEIOコレクション、大腸菌の全遺伝子のクローンライブラリのASKAクローン、枯草菌の遺伝子破壊株コレクションのBKEライブラリ等は世界中で利用されています。これらは個別または全株セットで分譲できます。また、in vivoシームレスクローニングに使えるiVECシリーズ株は遺伝子クローニングや遺伝子発現用に開発された菌株で、広く分子生物研究に利用できます。最後に、論文発表済みの有用なリソースがあればNBRP大腸菌・枯草菌への寄託をご検討頂ければ幸いです。
- NBRP「一般微生物」:環境と健康の研究の発展に貢献するための微生物リソース整備
飯田 敏也、鈴 幸二、岡田 元、伊藤 隆、坂本 光央、飯野 隆夫、遠藤 力也、押田 祐美、森下 羊子、岩城 志乃、加藤 真悟、橋本 陽、大熊 盛也
(理研BRC・微生物材料開発室)発表要旨
理研BRC微生物材料開発室(JCM)は、細菌、アーキア、酵母、糸状菌に分類される微生物リソースを幅広く収集・保存・品質管理をし、必要とする研究者・技術者に提供する微生物系統保存事業を実施してきた。2007年度よりNBRP「一般微生物」の中核的拠点機関を担い、国内外の研究開発の動向を把握しつつ、「環境と健康の研究」に資する世界最高水準の微生物リソースを整備して、幅広い分野の研究に貢献すべく活動している。これまでに世界各国の研究者から基準株等の学術研究上有用な微生物株の寄託を数多く受けており、本年11月現在、その保有数は3万株を超えた。また、例年4千を超える微生物リソースを国内外の研究機関に提供しており、それらを利用した研究成果を数多く挙げていただいている。JCMのホームページ(https://jcm.brc.riken.jp/)には微生物リソースのカタログ情報や提供/寄託手続きに関する案内等を掲載しているので、ぜひアクセスいただきたい。
- NBRP「地球規模生物多様性情報機構(GBIF)」:生物多様性情報利活用のプラットホーム
神保 宇嗣1、細矢 剛1、水沼 登志恵1、海老原 淳1、中江 雅典1、倉田 正観2、土畑 重人2、伊藤 元己2、木村 紀子3、川本 祥子3
(1:国立科博、2:東京大・院・総合文化、3:遺伝研)発表要旨
生物多様性情報とは、生物のおもに種レベルでの多様性に関する情報であり、蓄積された情報は生物多様性に関わる活動をはじめ、さまざまな科学分野で利活用されている。地球規模生物多様性情報機構(GBIF)は、生物多様性情報の中で、生物の分布データ(在・不在データ)や分類群名データなどを集約している国際的なプラットホームであり、特に分布データは19億件を超えている。NBRPのGBIF課題を担う「日本生物多様性情報イニシアチブ(JBIF、旧GBIF日本ノード)」は、日本国内の生物多様性情報リソースを集約してGBIFへ公開する事業を継続して実施しており、日本からGBIFへの公開件数は2021年度に1000万件を突破した。日本からのデータは国際GBIFデータポータルサイトから公開されているほか、国内向けにJBIFおよびS-Net(国立科学博物館が運営する自然史系博物館データポータル)のウェブサイトからも発信されている。
- NBRP「ABS学術対策チーム」:研究者にとっての生物多様性条約 -海外の生物を用いた研究における注意点-
鹿児島 浩、鈴木 睦昭
(国立遺伝学研究所 ABS学術対策チーム)発表要旨
過去においては、研究者は何の制限もなく、海外の生物の研究利用を行って来ました。しかし、地球規模の生物多様性の保全の必要性や途上国の資源ナショナリズムの高まりのため、生物多様性条約や名古屋議定書などの国際条約が作られ、これにより海外の遺伝資源を研究する場合、1)提供国の法令遵守、2)提供国が求める手続き、が必要になりました。
これらに違反すると、研究が深刻なダメージを受ける可能性があります。実際、2020年12月には書類の不備を理由に学術論文の発表取り下げがありました。「今まで大丈夫だったから、今後も問題ないだろう」という考えでは研究の継続に大きなリスクを生じる可能性があります。
ABS学術対策チームでは、世界中の国々で様々に異なる法令やABSに関する手続きの調査を進め、日本全国の大学・研究機関から寄せられる質問、相談へのアドバイス対応を行い、また、海外生物の研究利用のための国際共同研究の促進を支援しています。 - NBRP「藻類」:藻類リソースの多様性とその魅力
河地 正伸1、山口 晴代1、鈴木 重勝1、上井 進也2、羽生田 岳昭2、川井 浩史2、小亀 一弘3
(1:国環研、2:神戸大、3:北海道大)発表要旨
NBRP藻類では、進化系統的に多様な藻類リソースを整備してきた。国環研は微細藻類、神戸大は海藻類を対象として、約5,100株のリソースを収集、年間1,000株を超えるリソースを国内外に提供してきた。凍結保存に移行したリソースは神戸大と国環研で相互にバックアップ、北大では約500株の重要な継代培養株のバックアップを継続している。リソース利用に関して、光合成・分子生物学のモデル生物、応用利用、アオコ・赤潮研究や水産上重要なリソースの利用が一定の割合を占める一方で、新規利用者による新たな研究分野での利用も確実に増えている。多様なニーズに応える多様なリソース整備が重要と考えている。計測機器開発現場での利用や医療・医薬品材料としての利用は新しいトレンドとなるのかもしれない。異分野での利用、そしてSDGsやブルーカーボン技術の観点から、藻類の利活用を推進することに繋がるリソース等について紹介したい。
- NBRP「ネッタイツメガエル」:ネッタイツメガエルの遺伝学・ゲノム科学的リソース基盤の形成とその活用
鈴木 誠1,2,井川 武1,2,柏木 昭彦1,柏木 啓子1,古野 伸明1,2,鈴木 菜花1,田澤 一朗1,2,高瀬 稔1,2,三浦 郁夫1,2,鈴木 厚1,2,花田 秀樹1,2,中島 圭介1,2,彦坂 暁2,越智 陽城3,加藤 尚志4,森 司5,荻野 肇1,2
(1:広島大学 両生類研究センター、2:広島大学 大学院統合生命科学研究科、3:山形大学 医学部メディカルサイエンス推進機構、4:早稲田大学 教育・総合科学学術院、5:日本大学 生物資源科学部)発表要旨
ネッタイツメガエルは両生類モデルの1つとして、一般的なウェット実験からドライ解析まで対応できるようその基盤整備が進んでいる。小さな2倍体ゲノムを持ち性成熟に要する時間が短い等の遺伝学に適した特性を持つ一方、ヒト疾患関連遺伝子の約8割が保存されており高効率の遺伝子導入やゲノム編集による機能解析が可能といった特徴も備える。広島大学両生類研究センターは当事業の代表機関として、生体リソース(野生型近交系や、移植実験に適したfoxn1変異体、透明でイメージングに適したhps6変異体等の組換え系統)と非生体リソース(プラスミド等の核酸試料やゲノム配列情報等)を収集・保存しユーザーに提供している。また低コスト飼育方法、遺伝子機能解析、バイオインフォマティクス等の技術講習会や学術集会等を開催するとともに、希望者が技術支援を受けながらネッタイツメガエルを用いた解析を実施するための施設を整備している。
- NBRP「ゼブラフィッシュ」:ナショナルバイオリソースプロジェクト・ゼブラフィッシュ
岡本 仁1、川上 浩一2、 東島 眞一3、成瀬 清4
(1:理研CBS、2:遺伝研、3:生命創成探求センター、4:基生研)発表要旨
ゼブラフィッシュは、胚が透明で遺伝学的アプローチが可能なモデル実験脊椎動物として世界的に研究に用いられ、特に最近はコストパフォーマンスや動物愛護の精神から哺乳類動物モデルの代替としての需要が高まり、ヒト疾患モデル等の応用研究もさかんに行われてきています。
NBRPゼブラフィッシュは、理化学研究所(CBS)を代表として3つの機関が連携し、国内で開発されたゼブラフィッシュ系統の保存・提供・寄託受け入れを行なっています。
日本人研究者は独自のゼブラフィッシュ系統作製技術を開発してきており、特に近年はゲノム編集技術が活用され、国内で産出されるゼブラフィッシュ系統の数は益々増加しています。本事業では、効率的な精子凍結保存技術を開発しており、膨大な数のリソースの保存が可能です。
今までに寄託された系統はリクエストに応じて国内外に広く提供され、それらを使った論文が続々と発表されています。ウェブサイトを通じてオーダー可能ですので、是非ご利用ください。 - NBRP「カタユウレイボヤ」:~脊索動物の特徴を備えた単純な体制をもつ動物の研究支援~
笹倉 靖徳1、佐藤 ゆたか2、吉田 学3
(1:筑波大・下田臨海実験センター、2:京都大・院理、3:東京大・院理・附属三崎臨海実験所)発表要旨
脊索動物ホヤは系統学的に脊椎動物の姉妹群であり、その分子機能の解明は脊椎動物や脊索動物の進化を探る上で欠かすことができない。ホヤの幼生はオタマジャクシ様の形態をとり、数えられる程度の細胞数で構成された体には脊索や背側神経索等、脊索動物の特徴を備えている。カタユウレイボヤはホヤのモデル種として2002年にゲノム配列が解読され、遺伝子配列や転写調節領域等の情報が詳細に整備されている。またこのホヤでは遺伝子組換え系統作製やノックアウト、ノックダウンに代表される実験技術が確立されている。カタユウレイボヤの発生は早く、受精後わずか1日で幼生となり遊泳を開始するため、遺伝子機能に迅速にアプローチすることが可能である。特にゲノム配列や体制の単純さから、転写調節領域の解析やシングルセルオミクス解析の好材料として様々な分野の研究に利用されている。本NBRP事業では、実験に標準的に利用される野生型や、各種のトランスジェニック系統、突然変異体系統を収集・保存・提供し、カタユウレイボヤを用いた研究体制の整備を進めている。
- NBRP「ショウジョウバエ」:高次機能研究を支える先端リソース拠点
齋藤 都暁1、三好 啓太1、矢野 弘之1、高野 敏行2、都丸 雅敏2、佐貫 理佳子2、大迫 隆史2、粟崎 健3、平井 和之3
(1:遺伝研、2:京都工芸繊維大、3:杏林大)発表要旨
NBRPショウジョウバエは、ライフサイエンス研究の基盤として有用なキイロショウジョウバエの突然変異系統、ゲノム編集関連系統(FlyCas9)、RNA干渉(RNAi)系統の他、進化と生物多様性の研究に重要なショウジョウバエ野生種やキイロショウジョウバエ近縁種の突然変異系統など、ショウジョウバエ遺伝資源を総合的に維持・管理し、研究コミュニティに広く提供を行っている。実施体制としては、国立遺伝学研究所、京都工芸繊維大学、杏林大学の3機関でコンソーシアムを構成し、NBRP発足当初から、本プロジェクトは世界最大規模にまで発展したストックセンターとして国際的な責任を果たすと共に、時代の要請に応えたリソースの収集と質の向上を目指しており、その取り組みについて紹介したい。
- NBRP「カイコ」:日本発信のカイコバイオリソースの魅力
伴野 豊1、藤井 告1、嶋田 透2、梶浦 善太3
(1:九州大、2:学習院大、3:信州大)発表要旨
カイコは人間と共通する病気を有さず、人間に危害を与えることもない。少量のスペースで大量に飼育することも可能である。また、日本が世界一多様な突然変異体リソースを保有する。近年は遺伝子改変やゲノム編集カイコを用いた有用物質生産が注目されている。さらに、実験動物の代替生物として利用することも可能であるなど、多彩な魅力を備えている。NBRPカイコではユーザの利便性向上のため、初心者にも飼育しやすい大型のカイコを用意している。飼育ができないユーザーには、希望するステージのカイコ(卵、幼虫、蛹、成虫など)をほぼ年間を通じて分譲している。カイコの飼育には桑の葉が必要であるが、中核機関が暖地である九州に位置することを活かしてビニールハウスで冬期も桑を栽培しており、桑葉も周年供給可能である。比較ゲノム解析の観点から、カイコに近縁な野蚕(ヤママユ、エリサン等)も管理している。リソースの詳細は、ホームページ(https://silkworm.nbrp.jp/)を参照。
- NBRP「線虫」:遺伝子機能解析のための線虫ストレインの収集・保存・提供
吉名 佐和子、末廣 勇司、出嶋 克史、吉田 慶太、伊豆原 郁月、酒井 奈緒子、三谷 昌平
(東京女子医科大・医)発表要旨
線虫は約12,000のヒトと相同な遺伝子を持ち、生物・医学研究で利用されている遺伝学のモデル生物です。私たちはこれまで線虫の遺伝子欠失変異体を単離・収集し、その成果を公開して世界中の研究コミュニティに対して貢献してきました。近年では次世代シーケンサーを用いて、過去に取得した系統から新規変異を単離する方法も確立し、累計12655系統の変異体を収集・保存するに至っています。これらの変異体はwebサイト上で公開され、世界中の研究室へ提供可能な状態にあり、実際にのべ28652系統の線虫を40ヵ国の研究機関へと提供してきました。提供した線虫を用いた研究論文も毎年平均して200以上発表されており、2020年度はコロナ禍にありながら283件の論文に利用された実績を持ちます。本大会では線虫について知りたい、線虫の変異体を研究に利用したいという方に、具体的な線虫の性質や、変異体の利用方法をご紹介いたします。
- NBRP広報:リソース寄託・利用相談窓口
高祖 歩美
(NBRP広報室/遺伝研・生物遺伝資源センター)発表要旨
過去5 年間(FY2016‒FY2020)において、年平均468名の方がNBRPにバイオリソースを寄託し、年平均6,390名の方がNBRPのバイオリソースを利用し、多くの研究・教育関係者並びに企業の皆様にNBRPで収集、保存、提供するリソースを活用いただきました。また、NBRPで提供しているリソースを用いた成果論文の発表数も2010年以降、毎年2000本以上に及び、NBRPのバイオリソースは生命科学研究を支える研究基盤となっています。
NBRP広報室では、バイオリソースの普及と利用の促進のため、NBRPポータルサイト(https://nbrp.jp/)の運営や、シンポジウムの企画、パンフレットの作製など、NBRP事業に関する各種の広報活動を展開しています。NBRP事業全体に関するご質問やご相談、その他お問い合わせ等お気軽にご相談ください。 - NBRP「シロイヌナズナ等実験植物/植物培養細胞・遺伝子」
:食料・環境分野に貢献するリソース整備とウェブカタログによるリソース情報の発信
安部 洋、井内 聖、小林 俊弘、小林 正智
(理研BRC・実験植物開発室)発表要旨
当課題では、進化・適応により植物が獲得した環境応答機構の解明促進につながる実験植物シロイヌナズナリソースについて、遺伝子破壊株や変異体、成長制御やストレス応答を司る転写因子の一過的発現系統や野生系統などの整備を進めるとともに、分子レベルでの生命活動の解明や物質生産の技術開発に貢献する種々の植物培養細胞リソースを拡充している。また、遺伝子の機能解析やイメージング解析などに有用な植物形質転換用ベクターの収集も進め、多様なリソース整備を通して、食料・環境分野への貢献を目指している。同時に、当課題で取り扱う植物・細胞・遺伝子という多様なリソース情報をわかりやすく発信するため、画像データや細胞リソースの維持方法なども格納したウェブカタログの構築を行い、Exp-Plant Catalog(https://plant.rtc.riken.jp/resource/all_resource/list.html)として公開している。
- NBRP「イネ」:イネ属遺伝資源利活用高度化プロジェクト
佐藤 豊1、鈴木 俊哉1、髙橋 実鈴1、津田 勝利1、野々村 賢一1、久保 貴彦2、熊丸 敏博2、安井 秀2
(1:遺伝研、2:九州大)発表要旨
NBRPイネは世界的にみても貴重なイネ属遺伝資源の収集・保存・提供事業を行なっている。具体的には、野生イネおよび各種実験系統の多様な遺伝子資源を有効活用するためのリソースと、その関連情報(形質や遺伝子型なと)を体系的に収集・保存し、国内外の研究者に提供している。また、昨今の多岐にわたる研究分野のニースにも応えられるリソース整備および技術情報等の提供を通し、NBRPイネが保有する遺伝資源の利活用を促進するための事業活動を以下の通り進めている。
(1)世界の野生イネ21種1,700系統の保存と提供、野生イネ形質評価とゲノム情報の取得、ゲノム情報を用いた野生イネ系統の再分類
(2)野生イネ染色体部分置換系統、異種ゲノム染色体添加系統なとの収集・提供
(3)遺伝的背景の異なるイネMNU突然変異系統の収集
(4)MNU突然変異系統のTILLING解析オーフンラボ
(5)イネ統合テータヘース(Oryzabase)の整備・情報公開
NBRPイネは、国立遺伝学研究所(代表機関)、九州大学(分担機関)の2つの機関が連携しながら進めている。 - NBRP「コムギ」:The Japanese Stock Center for Wheat Genetic Resources 日本のコムギリソースセンター
新田 みゆき、太田 敦士、那須田 周平、寺内 良平
(京大院・農)発表要旨
○特徴
●コムギとその近縁種の遺伝資源 17,000系統を保有
-日本遺伝学の父、木原均博士らの学術探検で収集された系統
-コムギ遺伝学研究を支えてきた豊富な実験系統群
●六倍体、四倍体、二倍体コムギの遺伝的多様性を代表する各コアコレクションを整備
●品質維持のため発芽率モニタリング、系統のバーコード管理
●袋掛け自殖維持によるホモ接合度の高い高品質遺伝資源
●ABS、CBD、植物検疫法を順守
●全系統について形質データとゲノム情報を完備し、新たなユーザー獲得を目指す
○系統内訳
●コムギ栽培種 5,900系統、野生種 800系統
●コムギ近縁野生種Aegilops属植物 4,000系統
-世界で2番目に多いコレクション数
-コムギ品種改良のための重要な遺伝資源
●実験系統 1,500系統
●ゲノム配列が決定された東アジアの代表コムギ品種 ‘農林61号’
-‘農林61号’ と24品種のあいだの組換え自殖系統集団 約5,000系統
●形質転換用実験品種 'Fielder'
NBRPコムギリソースは以下から入手可能です。
https://shigen.nig.ac.jp/wheat/komugi/
質問・相談などありましたらお気軽にお問い合わせください。
nbrpkmg.ku@gmail.com - NBRP「オオムギ」:オオムギ高品質バイオリソースの整備
佐藤 和広、久野 裕
(岡山大学・資源植物科学研究所)発表要旨
オオムギは、醸造用、食用、飼料用などの用途で利用される重要な植物である。オオムギは自殖性の二倍体であることから、六倍体のコムギを含むムギ類のモデル植物として遺伝学やゲノム科学の研究に利用されてきた。NBRPオオムギでは、世界中の地域から収集された在来品種、育成系統、実験系統、野生種の系統種子を保存・配布している。これらの品種・系統は遺伝的多様性に富み、遺伝子の単離や産業形質の解析に利用されてきた。現在、SNPアレイやNGS解析により、品種・系統の部分ゲノム配列の取得を進めている。このような系統情報のデジタル化が進めば、リソースを高品質に維持することが可能になり、研究利用の加速化も期待できる。また、NBRPオオムギでは、マッピング集団、コアコレクション、突然変異系統を中心とした新規リソースおよびBAC・完全長cDNAクローンなどのゲノムリソースをそれぞれ提供して、研究コミュニティーを支えている。
- NBRP「ミヤコグサ・ダイズ」:マメ科植物研究を牽引するミヤコグサ・ダイズバイオリソース
橋口 正嗣1,4、佐藤 修正2、橋口 拓勇1、田中 秀典3、明石 良1,3
(1:宮崎大・農、2:東北大・生命科学、3:宮崎大・IR推進センター、4:宮崎大・地域資源)発表要旨
マメ科植物は、種子貯蔵成分の多様性や土壌細菌である根粒菌との共生などの特性を有することから、食料をはじめ様々な分野で利用される重要な植物種である。ミヤコグサ(Lotus japonicus)は、日本に自生する野生の多年生マメ科植物で、世代時間が短く(2〜3ヶ月)、ゲノム情報が解読されていることから、マメ科植物のモデルとして植物と微生物の相互作用等の基礎研究で利用されている。一方、ダイズ(Glycine max)は種子にタンパク質や脂質の他、機能性成分(イソフラボン、サポニン、ペプチド等)を多く含むことから、基礎研究からマメ科作物としての応用研究まで広く利用されている。本プロジェクトではミヤコグサとダイズリソースについて、その形質、成分や遺伝子型などの特性情報を付加して公開することで、高品質のリソース整備と情報提供に努めている。下記Webページで各種リソースの分譲受付と情報の公開を行っている。
・LegumeBase:https://www.legumebase.brc.miyazaki-u.ac.jp/
・ミヤコグサゲノムデータベース:http://viewer.shigen.info/lotus/ - NBRP「トマト」:研究モデルトマト‘Micro-Tom’の変異体および情報リソース
杉本 貢一1、有泉 亨1、矢野 健太郎2、青木 考3、福田 直也1、江面 浩1
(1:筑波大・生命環境、2:明治大・農、3:大阪府立大・院生命環境科学)発表要旨
トマトは世界で最も多く生産されている果菜類の一つで、その育種開発や農業形質の改良は人類の食事情を改善する上で欠くことのできない課題の一つである。特に耕作不適合地への耐性メカニズム・植物工場をはじめとする次世代型農業への適応メカニズム・高GABAや高糖度と言った高付加価値果実の作出・果実の着果、花粉の稔性、収穫後果実の保存性など生産に関わるメカニズムに関する研究は、トマトをはじめとするナス科野菜全般の育種開発を促進することができる。我々ナショナルバイオリソースプロジェクト・トマト(NBRP-Tomato)は実験室での栽培特性に優れた“Micro-Tom”をベースとした変異体リソースの整備を進めている。今回は変異体リソースの整備状況および変異体リソースを利用して得られる情報リソースの整備状況について紹介する。
- NBRP「広義キク属」:キクタニギクモデル系統Gojo-0の全ゲノム配列決定とその活用
草場 信、中野 道治、小塚 俊明、谷口 研至
(広島大・統合生命科学研究科・附属植物遺伝子保管実験施設)発表要旨
日本国内には北海道から南西諸島まで20種近くの多様な野生ギク(キク属)が分布している。これらの野生種は高山帯から海岸部まで広く分布し、日本国内の様々な環境に適応している。国内外で観賞用に用いられる栽培ギクは六倍体を中心とした品種構成であるが、野生種においても二倍体から十倍体までの高次倍数性が認められる。野生ギク、栽培ギクにおいて、多様性・観賞価値に関わる形質や高次倍数化の機構解明にはキク属のモデル系統が必要とされるが、我々は二倍体野生種であるキクタニギクの自家和合性変異体を利用し、自殖を10回以上繰り返すことでゲノム全体が純系化したモデル系統Gojo-0を育成した。このGojo-0系統を用い、ロングリード、Hi-C法を組合わせることでゲノム3.15Gbpのほぼ全長をカバーする高精度な全ゲノム配列を決定した。本発表では、全ゲノム配列決定によって明らかになったキクタニギクゲノムの特徴と進化、キク属における分子遺伝学的解析への応用例と栽培ギク研究への活用の可能性について紹介する。
- NBRP「アサガオ」:ゲノム情報を利用したアサガオリソースの整備
仁田坂 英二1、星野 敦2
(1:九州大・院・理学研究院、2:基生研)発表要旨
アサガオ (Ipomoea nil) は中南米原産の植物で、奈良〜平安時代に中国から薬草として渡来したと考えられています。その後、観賞用に栽培されるようになり、江戸時代後期の易変性系統の発見を契機として、日本独自の園芸植物として発展しました。この過程で生み出された花や葉の色や形の多彩な品種は、トランスポゾンによる自然突然変異と、その組合せによるものです。一方、これらの変異体を使った遺伝学研究への利用は、メンデルの法則が再発見された直後からはじまり、200を越える変異遺伝子座が報告され、それらの連鎖地図も作成されています。植物生理学の分野でも、短日植物のモデルとして日長に鋭敏に反応して花芽をつける性質を利用して研究が進み、膨大な知見が集積しています。このような背景をもつアサガオは、日本発のモデル植物として独自の地位を確立しています。本プロジェクトでは、アサガオの突然変異系統や各種DNAクローンの収集・保存・提供活動に加え、系統のゲノム情報も取り入れた特性調査や広報活動などにより、リソースの質の向上や利用者の拡大を目指しています。