ご挨拶

第45回日本分子生物学会年会
年会長 深川竜郎
(大阪大学大学院生命機能研究科)

【年会長の挨拶 その3】

 今年のゴールデンウィーク(GW)は、3 年ぶりに行動規制なしとの報道がされています。大学での授業も、今春は基本的に「対面」が推奨されています。また、コロナ感染者第6 波後も、「感染者数が下がりきらない」と言われつつも感染者は着実に減ってきているように見えます(GW 後は増加する可能性もありますが、、、)。このような状況も踏まえ、MBSJ2022 は、現地開催を基本として準備を進めています。しかし、海外からの参加者については入国制限やフライトの運行など、年会開催時点での状況が読みきれない点もあり、シンポジウムやワークショップではオンラインも併用する予定です。一方で、本年会のテーマは「激論コロッセオ」と銘打っており、分子生物広場(アゴラ)での激論を期待しています。そのために、ポスター発表は現地のみとし、オンライン発表やポスター演者とのオンライン交流の場は用意しておりません。しかし、シンポジウム・ワークショップのハイブリッド化の経費に加え、企業からのスポンサー収入が完全にコロナ前までには戻らず、厳しい予算での開催になります。非常に心苦しいのですが、一般会員の年会参加費を上げざるを得ないという判断となりました(学生会員は据え置きです)。この点につきまして、皆様方のご理解を賜れば幸甚です。

 ここ数年、日本分子生物学会の理事会などでは、年会の国際化が議論されてきました。特に、発表の英語化などが問題となっていましたが、研究そのものの国際化や海外研究者との交流も重要な課題です。外国からの参加者が少ない中では、発表言語だけを英語化しても国際化は深まりません。そこで、本年会では、アメリカ細胞生物学会(ASCB)との共同セッションをいくつか考えています。年会の国際化の一つの目的は、海外の共同研究者を作るということです。私が駆け出しの頃、ある国際学会で、当時UCSD でpostdoc だったIain Cheeseman さんと意気投合しました。それからお互いのデータを交換し、議論を経て、共同研究に発展しました。いまや、MIT の教授になった彼とは、その後も共同研究を続けています。今回のASCB との複数の共同セッションでは、Cheeseman さんやOIST の清光智美さんの協力も得て、ASCB の2023 年President であるErika Holzbaur さんにも参加していただき、「どうやって国際共同研究を行うべきか」、「どうやって国際的なグラントを獲得するのか」、また「日本国外で研究をおこなった後のキャリアパスをどうするのか」などを議論する機会を設けたいと考えています。年会を国際化する意義として、「国際共同研究を行い、自身の研究の国際化を目指す」そして、「そのためにはどうするべきか」という点で何らかのヒントを参加者の皆様が得ていただければ、と思っております。

 また、せっかくの現地開催ですので、ポスター参加者の一部の方に、サイエンスピッチと称するショートトークの機会を設けています。限られた時間で研究内容のエッセンスを伝えられるトークを行っていただき、ポスターセッションでさらに議論を盛り上げてください。一方、年会は人との交流の場ですが、いわゆる「高名な」先生との交流はハードルが高いことが多いです。そのような先生と気さくに交流できる場を設ける企画も考えています。その他にも、これまでの年会にない企画を考えておりますので、お楽しみください。

 と、色々と新しい企画のお話をしたのですが、先日、「年会にとって一番重要なことは、シンポジウム、ワークショップ、一般演題などのサイエンティフィックセッションの質を保つこと」という意見を頂戴しました。この意見には、100%同意します。その点では、ポスターなどでの真剣な議論が最も大切だと考え、昼のど真ん中の時間帯にポスターセッションの枠をとっています。本年会のテーマは「激論コロッセオ」です。広い会場内での白熱した議論を期待しています。

 演題登録締切は、7 月29 日です。今年は、文字の要旨だけでなく、皆様の顔としてグラフィックアブストラクトの提出もお願いしております。MBSJ2022 を盛り上げるために是非、会員皆様一人一人がエキサイティングな演題を投稿してくれることを期待しております。何卒よろしくお願い申し上げます。

2022年6月
第45 回日本分子生物学会年会(MBSJ2022)
年会長 深川 竜郎
(大阪大学大学院生命機能研究科)

【年会長の挨拶 その2】

昨年末に横浜で行われた第44回年会 (塩見美喜子年会長)は、2年ぶりに対面を中心としたハイブリッド年会として行われました。対面でのイベントを心配する声もあった一方、全体では6500名程度の参加と3337演題の発表があり、そのうち70%は現地発表でした。現地参加者からは、「やはり対面はいい」「恐る恐る現地に来たけれど、人と会えて有益だった」という声も多数、聞こえてきました。第45回年会 (MBSJ2022)も対面を基本とする方針を組織委員会で決定していたので、このような声を聞き、やはり対面を基本とした「議論できる年会」を実現しようと決意を新たにしました。しかし、この文章を書いている1月半ばの時点では、オミクロン株の急速な感染拡大もあり、「この先どうなるんだろう?」と言う不安を抱えていることも事実です。しかし、今後のワクチンの3回目接種の加速化や経口薬の普及などの情勢も鑑み、十全な感染対策を講じることで、今年の第45回年会を、対面で開催できると信じて準備を進めております。

MBSJ2022の特徴の一つは、幕張メッセの広いポスター会場です。この会場内に口頭発表の場も用意して、ポスター参加者にもサイエンスピッチと称するショートトークを行ってもらおうと考えています。ポスターでデータの詳細を聞く前に、ショートトークで研究内容の全体を俯瞰するのは非常に有効だと思います。アトラクティブなショートトークをすれば、ポスターを訪れてくれる人も増えるでしょう。この他にも、年会を盛り上げる仕掛けをいくつか試したいと考えています。

また、日本の生命科学の現状を議論できる場も提供したいと思っています。かつて、クローニング競争が盛んだった頃は、世界における日本の生命科学のプレゼンスも悪くなかったと思います。夜通し働いて、新しい遺伝子を獲ることで世界のイニシアティブが取れた時代もあり、日本人の勤勉さも、当時は有利だったかもしれません。しかし、ポストゲノム時代に入ると、データが膨大になり、勤勉さだけでは太刀打ちできなくなった感があります。ポストゲノム時代のオミックス研究では、高額化した機器の共用化や、情報科学を含む異分野との交流が不可欠です。共通ファシリティを作り、それを効率的に運用することが苦手な日本の大学の現状では、オミックス全盛時代からとり残された感を抱く人も少なくないと思います。また、情報科学の導入に遅れたウエット研究者も少なからず存在すると思います。さらには、運営費交付金の削減などに関連した研究費不足も、オミックス研究への参入を躊躇させます。このような状況下で、第45回年会では、世界と伍して研究を推進していく方策を考え、議論できる機会を提供したいと思います。シンポジウムやワークショップで各分野の最前線を学び、それを自分の研究にフィードバックするのが年会の基本ですが、もう少し全体を眺め、「このままの効率/方向で良いのか?」「世界と戦うためにはどのような工夫が必要か?」などを考えられればと思います。アメリカ細胞生物学会とのジョイント企画も開催し、国際共同研究をどう発展できるかなどを考える機会を提供したいと考えています。少ないパイを日本の中で取り合うのではなく、オールジャパンで知恵を出し合い、ツールを共同化し、協働するためのきっかけを年会で作っていただくことを切に望んでいます。

しかし、何はともあれ、学会の基本は、「楽しむこと」です。「分子生物学って面白い」「年会に参加して楽しかった」と言ってもらえるような年会を目指しています。今はコロナ禍の真っ只中にあり、まだ先は読めませんが、充実した年会開催を目指しますので、会員の皆様の積極的なご支援、ご参加をよろしくお願い申し上げます。

2022年1月

【年会長の挨拶 その1】

第45回日本分子生物学会年会(MBSJ2022)の年会長を務めさせていただく、大阪大学大学院生命機能研究科の深川竜郎と申します。約3年前に、本年会をお引き受けした時には、まさか世界が、パンデミック状態になるとは、つゆほどにも思っていなく、参加者同士が密に議論できる会場を探すところから始めました。その結果、約30 年ぶりに千葉県の幕張メッセを会場に選びました。広大なポスター会場を確保できたので、「激論コロッセオ」と銘打ち、熱い議論ができる年会を開催しようと思っておりました。また、日本生物物理学会と共催の形にして、分子生物学会のマンネリ感を少しでも払拭しようと、組織委員会の士気も上がっていました。しかしながら、昨年から今年にかけて、年会準備を進めるうちに新型コロナウイルスが流行し、思うような年会が開けるのか、不安を抱くようになってきたのも事実です。

ここ1-2 年で、オンライン学会が浸透し、その便利さもあって、学会はPC上で十分だという声も聞かれます。コロナ禍で学会に初参加した学生さんは、学会はPC上でやるものだと思っているようです。しかし、実際に参加者同士が、顔を付き合わせ、未発表のデータについて、「ああでもない、こうでもない」と議論するうちに、研究の新しいヒントが得られ、研究が進んだり、あるいは実際に共同研究に発展したりするのも、学会の醍醐味です。したがって、約1 年後の社会情勢は、予想はできないものの、これまで準備してきた方針に従って、基本的にオンサイト学会を幕張メッセで開催したいと考えております。幸いなことに、最近の感染者の急激な減少は、明るい兆しと思います。

先が読めないことが多く、不安定なご時世ですが、こんな時こそ、皆が楽しめて、「参加してよかった」と思えるような年会ができればと思っております。もちろん、オンラインを取り入れざるを得ない状況になれば、柔軟に対応する所存です。皆様方の積極的なご参加をお待ち申し上げております。特に、若い層の会員には、「学会とは、こんなに面白いものだ。次回も参加して、より良いデータを発表したい」と思えるような高揚感を味わっていただけると幸いです。会員皆様の厚いご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

2021年11月

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