ご挨拶

第93回生化学会大会
会頭 深見 希代子
(東京薬科大学生命科学部)
 第93回日本生化学会大会を2020年9月14日(月)~16日(水)の3日間、パシフィコノース(横浜)において開催いたします。2020東京オリンピック開催直後の余韻が残る時期での、パシフィコノースという2020年の春完成の新しい会場での開催となります。パシフィコノースでは、講演会場とポスター会場、企業ブース等が1つの建物内で行われますので、いろいろな方々との接触の場も広がり利便性も上がると考えております。是非交流の場としてご活用下さい。
 さて日本生化学会は、1925年に生命現象を化学的に究明する総合学問の場として、医学、理学、農学、薬学など広範な分野からの研究者の参加を募り、柿内三郎先生らによって設立されました。「生化学」という言葉も柿内三郎先生の発案ということですが、同年に初めての大会が開催されていますので、すでに100年近くの長い歴史を刻んでいます。こうした黎明期を経て、「生化学」は当初の目論見通り、色々な分野で花開いていきます。生体内での化学反応に携わるいろいろな酵素が発見され、糖代謝、脂質代謝、ヌクレオチド代謝、薬物代謝などの代謝経路が明らかになりました。ホルモン等の生理機能やシグナル伝達経路、タンパク質の合成や構造解析なども発展しました。私自身も高校生の時に初めて当時興隆しつつあった「生化学」という学問分野を知り、その後の進路を決定することになりました。その後1980年頃にはタンパク質を作り出す遺伝子に注目が集まり、2003年ヒトゲノム解読の終了が宣言されました。近年は、こうした遺伝子情報に加え、タンパク質、脂質の網羅的な解析が様々な疾患や生命現象と関連して進んでいます。数理モデルによる生体反応の予測も可能になりつつあります。こうした状況で「生化学」はもはや古い学問領域という認識が若い世代にはあるかもしれません。しかし新たな解析技術が使用可能になったからこそ、改めてできる「生化学」があるように思います。その意味で、多様性という伝統を「守る」生化学を維持し、そこから新たな価値観を生み出す「攻める」生化学を目指したいと考えています。そうした思いを込めて、今回の大会テーマは「守る生化学、攻める生化学」としました。
 大会では、プレナリーレクチャーを京都大学の本庶佑先生とスイス・バーゼル大学のDr. Michael N. Hallにお願いしました。本庶先生は、抗PD-1抗体の開発による腫瘍免疫分野の開拓により2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞されました。基礎医学から実際の臨床医学まで発展させて新たな腫瘍免疫という学問分野を定着させたことは、がん分野の革命とも言えます。またDr. Michael N. Hall は、細胞の生存など多彩な機能に関わっているmTOR分野の開拓者で、2017年にラスカー賞を受賞されました。こうした素晴らしい先生方をお迎えできることを大変嬉しく思っております。
 また今回は、約70のシンポジウム(企画シンポジウムと公募シンポジウム)を企画しています。企画シンポジウムは生化学を俯瞰できるように多くの分野で構成しました。公募シンポジウムは約50を募集する予定ですが、分野横断型や独創性の高い提案を歓迎します。若手や女性、海外からの講演者などのダイバシティも歓迎です。新たな視点を生化学会に吹き込み、これまで生化学会員でない方もこれを機に是非生化学会会員となって一緒に生化学会大会を盛り上げていただく場になれば幸いです。
 近年、専門的な学会が多く存在する中で、これ程多種多様な分野をカバーしている学会は少ないと思います。シニアのみならず若い方々も積極的に参加して、ご自身から新しい分野の開拓者となるべくヒントを得ていただきたいと思っています。
 大会でお会いできることを楽しみにしております。

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