挨拶

 この度、第92回日本生化学会大会を2019年9月18日(水)から20日(金)の3日間、パシフィコ横浜にて開催することになりました。本大会では、「挑戦する生化学」をテーマに掲げ、特に、生化学と他の研究領域との境界、さらにはその枠を超えた領域までも視野に入れ、今後さらに進歩する生化学研究のマイルストーンに出来ればと考えております。
 言うまでもなく、生化学の本質は、生命現象における「物質」の機能の解明であります。しかし生命体を構成する物質の中で、糖・脂質などは遺伝情報からだけでは生体中での分子的実態は分かりません。またDNAやRNAにつきましても本来の機能以外に、RNAが他のRNAやタンパク質と相互作用して機能する事(機能性RNA)、好中球内で核内DNAが捕捉したバクテリアへの直接的な殺傷因子として働くなど、これらの物質そのものの特性を利用した機能が注目されてきております。 
 さらに近年、質量分析を含めた分析機器と解析ソフトの発達により、糖・脂質・タンパク質・DNA/RNAの二次的修飾が明らかとなると同時に、生命現象の最前線で機能するこれら代謝物や翻訳後修飾などを同時的かつ網羅的に解析(いわゆるメタボロミクス)できるようになり、生体内で物質群の総体とその動的変動の実態から生命現象が説明されるようになってきており、生化学研究の重要性がますます増してきております。
 生命科学は日進月歩の進歩を遂げております。生化学会におきましても毎年トピックは変遷しておりますが、本大会では、近年非常に発達してきている「ビッグデータを用いた情報科学」をどのように活用するか、を一つにトピックにしました。また、上述のようにDNA/RNAについても生化学的観点での研究の必要性も出てきており、これまでの大会以上にこの分野の研究者にも参加してもらう予定です。今や生命科学研究と医療・健康分野とは切り離せない状況です。日本では非常に素晴らしい研究が生み出されているにも関わらず創薬・医療応用への発展が少ない、と言われております。本大会では、製薬企業経験者やバイオベンチャー創設者などをお招きし、基礎研究から実用化への問題点や解決策についても議論したいと思っております。
 本大会では、ワークショップと区別する事なく約80のシンポジウム(企画シンポジウムと公募シンポジウム)を行う予定ですが、企画シンポジウムでは、新たな領域への発展および融合を目指して、これまで生化学会会員でなかったオーガナイザーも積極的に参加していただく事にしました。また約50の公募シンポジウムを企画する予定ですが、特に若手、中堅、および女性研究者による応募を期待しております。さらに一般発表では、従来のポスター発表に加えてショートトークをより多く取り入れる事にしました。大学院生や若手研究者の皆さんにショートトークでの緊張感ある質疑応答の経験をしていただきたいと期待しております。
 最後になりますが、これが生化学か?と思われるようなシンポジウムも企画するかもしれませんが、新たな研究領域や手法を積極的に取り入れて生命科学のより一層の発展を目指す生化学大会としたいと思います。皆様の多大なるご理解、ご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。

第92回日本生化学会大会
会頭 新井 洋由
(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 /
東京大学名誉教授)

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