Before Corona (BC), After Disease (AD):Chance to Change
この度、2021年11月3日(水)~5日(金)の3日間、第94回日本生化学会大会を開催いたします。本年は、パシフィコ横浜ノースで皆様とお目に掛かり、最新の情報交換や研究成果の議論を切望しておりましたが、先般お知らせしましたように、第93回大会に引き続き、Web会議形式での開催となります。皆様の研究室から発表・聴講・参加できる利便さを、この機会に堪能いただけましたら嬉しく思います。
さて、染色体の実体が理解される前(Before Chromosome [BC])と、DNAの二重らせん構造が解かれた後(After DNA [AD])、タンパク質、糖鎖や脂質の分野において、遺伝情報にもとづく新しい研究が展開しました。このように、高分子や低分子を複合体として捉える前の黎明期(Before Complex [BC])を経て、現在では、複合体の高次構造構築(3次元)に時間軸を加えて包括的に議論(4次元)していく生命科学の進展(After Dimension [AD])が見られています。本大会のホームページの挨拶でも述べましたが、新型コロナウルスの世界的な感染によって、科学界にとっても2021年は大きな転換点となりました。特に、RNAの作用機序(Mode of RNA)をもとにしたワクチンの開発と実際の接種が進み、病気の克服に向けた人類のチャレンジが始まった年でもあります。遺伝情報を含めた基礎研究の重要性が益々高まっていると感じ、転換期に開催される今回の大会テーマを「Before Corona (BC), After Disease (AD)」としましたのも、このような理由からでした。
特別講演は、ノーベル賞受賞者のPhillip Sharp先生(MIT)「Biochemistry and cell biology of multivalent condensates in regulation of gene expression」と水島昇先生(東京大学)「細胞内分解:特に小器官の分解について」に、最新の研究成果のご講演をお願いしております。また、皆様からは、33件の企画シンポジウムと60件の公募シンポジウムをご提案いただき、トップランナーや若手の先生方がオーガナイズされており、発表者も世界の第一人者の先生方に講演いただきます。そして(late breakingも含めまして)1,018題の一般演題登録をいただき、309題の口頭発表(26セッション)を予定しております。一般演題を動画として登録いただくConfit(コンフィット)には、「コメント欄」や「いいね!ボタン」が工夫されていますので、興味をお持ちの、あるいは気になる発表につきまして、演者の方達に是非メッセージをお送りいただき、議論を深めていただければと思います。
研究室から参加いただく第94回日本生化学会大会ではございますが、皆様の発表を拝聴できますことを楽しみにしております。
第94回日本生化学会大会
会頭 深水 昭吉
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター
ご挨拶 その1 ▼
第94回日本生化学会大会は、2021年11月3日(水)?5日(金)にパシフィコ横浜ノースで開催予定です。
人類は、幾度となくウイルスによる災禍に見舞われ、その都度に解決策を模索して病気を克服し、新しい時代を切り拓いてきました。2019年後半から世界各地に拡散していった新型コロナウイルスも、さまざまな分野に影響を及ぼしています。政治経済に加え、例えば、音楽や芸能などファンが集まって楽しむライブやコンサートなども制限されています。一方で、アーティストたちはこの状況を逆手にとってオンラインを活用したミニライブや番組を世界に発信し、私たちは現地に行かずとも、モニターを通じて、時にはon timeでライブを楽しむことが可能になりました。アーティスト同士が、各国のライブにオンラインでゲスト出演するようになり、むしろ、世界が身近になったと感じる出演者もいるくらいです。
2020年は、科学界にとっても大きな変化をもたらしました。アメリカ物理学会は、通常1,800人前後が会場に参加するスケールのようですが、2020年4月の大会では、初めてウェブ開催となり、7,000人以上が登録されたことが解りました(Nature 580, 574, 2020)。また、日本の学会の多くが、ウェブ開催(一部ハイブリッド)となっています。深見希代子先生が会頭を務められた第93回日本生化学会大会では、オンラインを活用した日本生化学会史上初めてのウェブ開催となり、大きな成功を収めました。これは、今後の大会の在り方に新しい基軸が提示されたことを意味し、会員の皆様も新たな胎動を感じられたのではと思います。
さて、延期された東京オリンピック2020が開催予定の2021年は、世界はどのような年になるでしょうか? 世界保健機構(WHO)やアメリカ疾病対策センター(CDC)から、新型コロナウイルスの感染経路や対策に関する情報が随時アップデートされており、国際協力のもとに新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発が進み、病気の克服へと近づくことを信じたいと思います。しかし、現段階では不確定な要素が多いことも事実であり、科学界にとって「コロナ前(Before Corona:BC)」から「病気を克服した後(After Disease:AD)」という転換点としての2021年になるのではと考えます。
ここで触れたいことは、第一線で活躍されている研究者の方々とともに、20代後半から30代の若手研究者、大学院生や学生の皆さんへの想いです。まさにBC→ADを駆け抜けていく皆さんは、たくましい想像力と創造性を合わせ持ち、将来国内外で活躍されていくことでしょう。アップル創業者の一人・Steve Jobs氏は、スタンフォード大学のスピーチ(2005年6月12日)で、卒業生たちに印象的な言葉(Connecting the dots)を投げかけました。『先を見通して点をつなぐことはできません。振り返ってつなぐことしかできないのです。だから将来何らかの形で点がつながることを信じましょう』。第94回日本生化学会大会では、国内外の著名な先生方による特別講演を計画しており、コロナ禍ではありますが、現在依頼中です。さらに、企画シンポジウムと公募シンポジウムに加え、世界を身近に感じていただけるよう、想像以上の点と点が結ばれることを期待し、参加者と海外の若手研究者をオンラインでon timeにつなぐトライアルを提供できたらと考えています。
日本生化学会では、2017年から「早石修記念海外留学助成(毎年8名)」を開始しました。4年の時を経て、海外で研究されている助成を受けた若手研究者が研究室を主宰する立場として帰国されるようになり、成果が着実に現れていることは素晴らしいと感じます。このような若手研究者の活躍が新しい点となってつながり、未来の生命科学を作り上げていただくことを期待したいと思います。
第94回日本生化学会大会のポスターは、生化学のイメージをモチーフに、研究室の修士課程の大学院生たちが作成してくれました。全てが彼女らのアイデアであり、生化学に対する若い視点と感性にあふれていると感じます。広い世代が意見交換できるダイバーシティーを大切にしながら、世界からの成果も受信できる多様な可能性をもつ第94回日本生化学会大会として、多分野からの研究成果を発表していただけますよう、ご協力を宜しくお願い申し上げます。
令和2年9月24日
第94回日本生化学会大会
会頭 深水 昭吉
筑波大学 生存ダイナミクス研究センター