ご挨拶
日本免疫学会は1971年に設立され、昨年50周年を迎えました。今年は、次の50年を見据えた第一歩として、2022年12月に第51回日本免疫学会学術集会を熊本(熊本城ホール)で開催する運びとなりました。新型コロナウイルス 感染症(COVID-19)は私たちの生活だけでなく、研究,学会活動にも深刻な影響を及ぼしました。免疫はウイルスに対抗できる大きな武器であり、このような時代に即した新しい免疫系の理解が求められています。またポストコロナの時代に研究や学会がどうあるべきか、どのように発展させるか、も大いに議論したいところです。そこで本大会テーマを「シン免疫学〜対コロナ・ポストコロナの科学」に設定し、次の50年を見据えた、新しい免疫学、これまで以上に深く、進化した、さらに親しみやすい免疫学を模索したいと考えました。本会議において新型コロナ感染症をはじめとする免疫関連疾患の謎を解き明かし、克服していく希望を、2016年に大地震に見舞われながらも復興著しい熊本の地で皆様と共有したいと思います。
新型コロナウイルスの研究では、ワクチン開発のみならず日本の科学の遅れを再認識させられました。コロナに関連する論文も、最近日本からも優れたものが出始めましたが数的には海外に大きく水をあけられました。しかしワクチンや抗体カクテル、サイトカインストームなど、感染症に対する免疫の理解の重要性が広く認識されました。大会テーマに「対コロナ、ポストコロナの科学」を標榜しましたが、コロナだけではなく広く感染症や癌、免疫難病、老化関連疾患や認知症など、日本の免疫学に携わる我々が総力を挙げて克服すべき課題を洗い出していきたい思います。
一方でCOVID-19によって重症化するのは高齢者や基礎疾患のある方が中心で、若者は多くは軽症または無症状であることが知られています。にも関わらずCOVID-19による、いわゆる「コロナ禍」の影響を強く受けたのは高齢者よりも若者ではないでしょうか。経済的な困窮のみならず、学会や会議、研究会が軒並みオンラインとなり若者は知的にも困窮する状況ではないかと危惧します。2022年冬の感染状況は読めませんが、本学術集会は参加者の安全、安心に最大限に配慮しつつ、現地開催を基本とし、オンライン開催も補完的に組み合わせたハイブリッド型で行う予定です。何よりも若手の人たちが双方向性の議論と情報交換、および人脈形成を活発に進められるようにいたします。学術集会は本来、研究者同士の交流によって新しい知見の交換と新たなアイデアを生み出す場であるべき、と思います。単にコロナ前に戻すというのではなく、ポストコロナ時代の科学に相応しい進化した新しい様式の学術集会となるように鋭意、準備を進めます。
日本免疫学会学術集会は、毎年国内のみならず世界中から2,000名以上の免疫研究者が一堂に会し、最新の研究成果を発表し議論する本学会の最も重要な「場」です。例年通りテーマごとのワークショップ、国内外の第一線の研究者による最先端の国際シンポジウム、各種の教育・技術セミナーなどを企画しています。中でも、昨年、一昨年に引き続き国内外からのSARS-CoV-2 に関するカッティング・エッジな国際シンポジウムを行い、現在人類がどこまでこのウイルスを理解し制御できたかを確認し、また今後の取り組むべき課題を明確にします。また、昨年に続いて一般からの公募による(若手)研究者企画国際シンポジウムを予定しています。これは時代を担う若手研究者の自発的かつ意欲的な取り組みを応援し、その活性化を通じて次の50年を睨んだ免疫学研究者の育成と本学会の発展を目指したものです。私は将来的には免疫学会はトップダウンからボトムアップへと転換すべきと考えます。また、免疫学研究に対する社会的要請を踏まえ、日本アレルギー学会と日本リウマチ学会との共催国際シンポジウムも企画しています。
これまで人類が経験したことのない超高齢社会を迎え、疾病構造も複雑で多様になっている中で、今回のパンデミックにより、免疫学研究に対する期待と社会的要請はますます大きくなっています。生命原理の理解とともに、免疫学の裾野を広げ、ヒト疾患の克服と健康維持に資する新しい時代の免疫学を模索する学術集会とすべく、鋭意準備を進めております。多くの皆様のご参加を衷心よりお願い申し上げます。
第51回 日本免疫学会学術集会
会長 吉村 昭彦
慶應義塾大学医学部