ご挨拶

第95回日本細菌学会
総会長 菊池 賢
東京女子医科大学 感染症科 教授

 このたび、第95回日本細菌学会総会を担当させて頂くことになりました、東京女子医科大学感染症科の菊池 賢です。基礎の学会では極めて臨床畑の私が諸先輩をおいて、歴史と伝統のある総会長を務めますのは、日本細菌学会の歴史でも極めて異例なことかと思いますが、日本細菌学会の現状を踏まえ、お引き受け致しました。開催にあたり日本細菌学会会員および関係者の皆様に一言ご挨拶を申し上げます。
 日本細菌学会の総会は、第1回が1927年(昭和2年)に当時の慶應義塾大学医学部長で初代日本医師会長であられた北里柴三郎先生により「第1回 衛生学微生物学寄生虫学聯合学会」として開催され、その後、敗戦の年の1945年(昭和20年)に1回中断されたものの、本総会は100年近くに亘り開催されてきた国内で最も歴史と伝統を誇る学術総会の一つです。当初は基礎、臨床の隔てはなく、多様なアカデミアの方々が参加されていたと思われます。
 日本細菌学会は120年の歴史と伝統を誇る、日本最古の学会の一つです。近年、学問は細分化され、学会数もうなぎ上りな一方で、会員数の減少や世代交代、若手育成などに苦慮する学会も少なくありません。日本細菌学会も1999年に3500名程だった会員数は今や2200名程度になっています。特に、薬学、感染症学(臨床系)、検査医学などの会員が減っていることが大きな問題です。我々は赤池理事長の元、日本細菌学会の立て直しに取り組んで参りました。その根幹は「社会に見える日本細菌学会」にするということです。ご存知のように、2019年12月に突如として、この世に現れた新型コロナウイルスによるCOVID-19は世界中を焼き尽くし、日本でも第5波と言われた大きなパンデミックが終息しつつありますが、まだ行く先がどうなるかは、誰にもわかりません。感染症の脅威が人々の日常生活、政治、教育、経済など全てに及ぶことをまじまじと感じさせられました。COVID-19に伴い、薬剤耐性菌や真菌感染の広がり、様々な医療リソースの欠如、検査システム構築の迅速な必要性など、日本細菌学会が寄与してきたテーマが、まさに求められています。今年はこの新型コロナウイルス蔓延下でのオリンピック・パラリンピック開催がありましたが、人的交流が増えることでの感染症危機について、COVID-19出現前から、市民への啓蒙活動にも取り組んで参りました。また、高校生以下の学生達に門戸を開き、総会で研究発表の場を提供する取り組みも昨年度から始めております。
 一方、地球規模でみれば、温暖化は深刻で、我々はこれから経験した事のない人類が作り出した環境変化に立ち向かうことを強いられます。地球の大手術が必要な時代になっているのです。そこには日本細菌学会の多彩な人材、研究が大きく寄与するチャンスでもあります。私は、総会というものは、本来、様々な分野の多様な人材が集まり、意見交換・議論を行い、学会の活性化に大きく貢献する場だと考えております。そこで「多様性から見えてくる細菌学の未来」をテーマに、これまでにあまり縁がなかった、あるいは離れて行った多くの方々に参加頂き、新しい日本細菌学会のあり方を提示できる、有意義な総会としたいと思います。是非、多数の皆様のご参加をご期待申し上げております。