会長挨拶
第54回免疫学会学術集会の集会長を務める河本宏です。本集会は、姫路で開催します。会場は、アクリエ姫路という2021年に開業した新しい施設です。姫路駅から直接連絡通路があり、アクセスがとても良い会場です。
今回のテーマですが、「免疫を知る、創る、操る」としました。
抗体を使う治療法は、例えば抗サイトカイン療法として自己免疫疾患などに、また免疫チェックポイント阻害剤、あるいは直接がん細胞の表面抗原を狙った分子標的薬として、各種のがんに使われたりしています。細胞を使う方法でも、CAR-T細胞療法はある種の血液がんに対して使われています。そういう点では、すでに「創る、操る」という時代が来ていると言えそうですが、一方で原理を考えた場合、「創る、操る」に関しては、まだごく限定的であることがわかります。
獲得免疫系は特定の抗原を標的として働いています。例えば、自己免疫疾患では何らかの抗原が標的となっています。従って、その抗原に対する免疫反応だけを抑えることが理想的であることは明らかですが、実際にはそのような治療法はほとんど開発できていません。がんに関しても、抗体療法やCAR-T細胞療法は表面抗原しか標的にできないという制約があります。がんワクチンは抗原特異的な治療法ですが、まだ十分な効果が示せていません。
今後数十年の間に、自己免疫疾患、アレルギー、がん、感染症などの免疫が関わる疾病に対して、「抗原特異的な治療法」が第一選択になる時代が到来すると思います。もしいつまで経っても到来しなければ、人類の知の敗北だと言えるでしょう。今回掲げるテーマには、抗原特異性を駆使した治療法の達成への切なる願いが込められています。
シンポジウムは、上記のような意図を反映させて、獲得免疫系に重きを置いた構成になっています。「知る」という点では、「免疫系の進化」や、私の研究の原点である「胸腺/T細胞分化」に焦点を当てたセッションを企画しました。「創る、操る」では、治療法の開発を目指すという事ですので、「ヒト」の免疫に焦点を当てたセッションを多く組み込みました。その中の一つの「細胞療法」をテーマにしたセッションでは、日本が世界を牽引している「多能性幹細胞を材料にした再生T細胞療法の開発」を取り上げます。リウマチ学会、アレルギー学会、がん免疫学会などの他学会、CREST、SCARDAなどの事業、ドイツ、フランス、オーストラリア、韓国など各国の免疫学会などとの連携も行います。
さて、姫路といえば姫路城が有名です。姫路城は要塞として完成度の高いデザインが施されていますが、一方で実際に戦乱に巻き込まれたことはなく、また先の戦争でも、姫路市が激しい空襲を受けた中を奇跡的に戦禍を免れ、「不戦の城」として知られています。それ故、築城当時の威容と美しさを誇っています。今回、私はHPやポスターに使うイメージを自ら作成する機会を得ました。そこで自ら描いたイラストの中では、今回のテーマと、姫路城という象徴的存在を組み合わせ、「美しい城を守るために、免疫細胞が外敵と戦う」というイメージにしました。禍々しい外敵と戦う免疫細胞は、鎧や武器によって武装されています。
今回の集会では、上記のように、普段と一味違うシンポジウムを企画したので、新しい観点や論点をお楽しみいただけると思います。また、まだ企画が十分練れていませんが、サイエンスとアートを融合させるようなイベントを何かできないかと画策しています。
姫路食べ物が美味しく、またいいお酒も沢山あります。是非多くの研究者の参加していただくよう、期待しております。
第54回日本免疫学会学術集会
会長 河本 宏
京都大学 医生物学研究所 所長