第53回日本免疫学会学術集会会長を務めさせていただきます、理化学研究所の大野博司でございます。本学術集会は、2024年12月3−5日の3日間、2021年に新たに開業した長崎駅直結の国際会議場「長崎出島メッセ」で行います。長崎・出島はかつて海外に開かれた日本の唯一の玄関口として海外の文化・知識の吸収の重要な拠点でした。その出島の名を冠する会場での開催は、まさに国際化を推進する日本免疫学会の学術集会に相応しいと考えます。
世界中で猛威を振るったコロナウイルスのパンデミックも収束に向かい、人々も既にその存在すら忘れ去ったかのように街を行き交っています。しかし、私達免疫学者は決してこの経験を過去のものとして記憶の彼方に追いやることなく、次なる未知のパンデミックに備える必要があります。例えばワクチンの重要性を世界中が再認識しましたが、本邦ではワクチンの副反応などに対する誤った認識の流布による心理的アレルギーなどにより、ワクチン開発競争力の低下からコロナワクチン開発で世界に遅れを取りました。また、全国で一斉にコロナワクチン摂取が行われた結果比較的短期間に大規模なデータ収集が可能となり、その効果や副反応について個体差が大きいことも再認識されました。このように、免疫ということば、概念が世間に広く浸透した中、第53回日本免疫学会学術集会会長を拝命しました。
日本免疫学会は1971年に設立された我が国の医学会を代表する学会の一つです。コロナ下ではありましたが2021年には50周年を迎えました。この間、世界の免疫学研究は分子生物学的手法、遺伝子改変動物技術、網羅的遺伝子解析技術などの開発と共にめざましい進展をみせ、医学生物学の分野における多くの新しい発見をもたらしてきました。その中で我が国の免疫学研究は、特にサイトカイン研究などを中心に一貫して先導的な役割を果たしてきたことは世界が認めるところです。日本免疫学会は、この我が国の免疫学研究の中心拠点として活動してきました。2005年には、任意団体からNPO法人として生まれ変わり、さらに活発な活動を展開してきております。現在、会員数3,600名を超える我が国でも有数の学会であり、学術集会の他、国際専門誌International Immunologyの発行、学生や若手研究者の研修会(免疫サマースクール)、一般の人達への啓蒙活動(免疫ふしぎ未来)など多彩な活動を進めています。2010年8月には、神戸・大阪・京都の関西地区にて、3年に1度の国際免疫学会が岸本会長の元に開催され、世界中から6,000名近い研究者が集い、世界の免疫学研究の先導役としての面目を果たしました。
我が国は今、これまで人類が経験したことのない超高齢化社会を迎えつつあります。この中で、死因の第一位であるがんや、記憶に新しいコロナウイルスのパンデミックも含め2050年までにがんを抜いて世界の死因第一位になるとWHOも予想している感染症、さらには予備群も含めると我が国の人口の約5人に1人が罹患している糖尿病や心血管疾患の原因ともなる慢性炎症、人口の約1/3が何らかの症状を持ち国民病ともいわれるアレルギーなど、社会的な健康課題は言うに及ばず、100を超える多くの難病のほとんどに免疫異常が関与していることを考えれば、免疫学研究の重要性は論を待ちません。さらに近年、腸内細菌叢に代表される環境因子が免疫制御や疾患の発症に大きく関わっていることも明らかになってきました。医学生物学研究は仮説検証型研究から、1細胞解析を含む各種オミクスデータや複雑な細菌叢メタゲノムデータなどのビッグデータ・メタデータを扱う数理・システム生物学に基づくデータ駆動型研究が主流となりつつあります。,これまでの免疫学はともするとマウスを主体とするモデル生物による詳細な分子メカニズムの解明が主流でしたが、モデル生物とヒトとの違い、さらには上述したコロナワクチンの効果や副反応、また抗癌剤の効果や副作用における個人差が明らかになると共に、ヒト免疫学の重要性がクローズアップされています。そこで、これからの免疫学は、免疫系と他の高次機能システム(神経系、内分泌系、消化器系など)の時系列データによる免疫老化を含む多臓器連関、さらには腸内細菌叢に代表される環境因子との関係について、ヒトとモデル生物のデータの融合による統合的なデータ駆動型研究をめざす必要があります。
そこで第53回の学術集会は、「臨床との融合により更なる高みへ〜From fusion with clinical practice to push immunology to a next step~」というテーマの元、日本消化器免疫学会(会期は12月5−6日)との合同開催と致します。臨床系の研究者が多く集う日本消化器免疫学会との合同により、ヒト免疫学に向けたディスカッションが寄り深まることを期待します。第47回(2018年)にも日本消化器免疫学会と一部合同開催致しましたが、今回はもう1歩踏み込んで、どちらの学会で参加登録しても、両学会の全日程(12月3−6日)の全てのセッションに参加可能、ということに致しました。また、クリニカルセミナーの充実も重点目標としております。
また、学会の国際化の視点では、従来のドイツ、韓国、オーストラリア-ニュージーランド、フランスの免疫学会との連携に加え、さらに国際粘膜免疫学会(Society for Mucosal Immunology)との合同シンポジウムも企画しておりますので、是非、多くの皆様のご参加をお待ち致しております。
第53回日本免疫学会学術集会
会長 大野博司
理化学研究所生命医科学研究センター(IMS) 副センター長