第94回日本細菌学会総会 総会長 松下 治
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病原細菌学分野
日本細菌学会は、現在の日本医学会の源流である日本聯合医学会に端を発しています。第1回は1902年に東京で開催され、田口和美会頭、北里柴三郎副会頭の指揮の下に1700余名が参集して活発な研究発表が行われました。1927年には、第1回衛生学微生物学寄生虫学聯合学会(第1回日本細菌学会総会)が北里柴三郎総会長の下で開催されました。北里先生は、常々「事を処してパイオニアたれ。人に交わって恩を思え。そして叡智をもって実学の人として、不撓不屈の精神を貫け。」と門下生に説きました。北里先生の薫陶を受けた先人たちが腸管感染症や国民病とも言われた結核などの感染症に果敢に挑戦し実践の場に生かしてきたことで、感染症は過去のものとも言われるまでになった時代もありました。
しかし、近年は新たな病原体が次々に出現するとともに、既知の病原細菌も着々と薬剤耐性菌を獲得し、病院内で易感染者を求めて跋扈する時代となっています。例えば30年後の2050年には薬剤耐性菌による死亡者数は現在の70万人から1,000万人へと15倍に増加し、がんによる死亡者数を上回ると予想されています。その時、我が国の医療現場は、1942年のベンジルペニシリン実用化前の世界に戻るのかもしれません。30歳も年齢が増えた皆様の感染症医療を基礎科学の面で支えるのは、現在の若手研究者、大学院生、学生にほかなりません。新たな予防法と治療薬の開発、人獣共通感染症への対応なども含め、次の世代が2050年を見据えて多数の課題に果敢に取組み続けることができるような支援が今こそ必要なのではないでしょうか。
そこで、第94回日本細菌学会総会を開催させていただくにあたり、次世代の研究者への具体的な支援をテーマにしたいと考えました。本総会では、若手研究者が普段の生活とは異なる視座と時間軸で細菌学研究を捉え直し、忘れがちになっている研究の基本に立ち返り、新たな研究の展開を得られるような企画を計画しています。留学による異文化との出会い、研究テーマの着眼と展開、異分野融合研究、臨床との協働、産業化などにより、研究の新たな展開を図った具体的な事例をお話しいただきます。さらに機関ごとに異なる研究職のあり方などもお話しいただきます。さらには奨学金・留学先・職・共同研究などの具体的なオファーもいただきたいと思っています。この総会が、細菌学研究者一人ひとりの研究展開とキャリアを考える一助となり、難しい時代を生き抜く力になりましたら幸いです。結果として、我が国と世界に貢献し続ける細菌学研究者が集う日本細菌学会を目指します。皆様方の積極的なご参加とご支援をよろしくお願い申し上げます。
ポスター「細菌学研究者の生存戦略を探る~実践と支援~」の趣旨
「晴れの国おかやま」を象徴する青い空。ユビキタスに存在するフローラと病原細菌を象徴するオニ。凛々しいモモタロウ・チームは若手研究者を、キジは視座を広く遠くに持つ壮年研究者を象徴しています。面々の羽織などの模様は、16S ribosomal DNA配列です。モモタロウが持つ旗印には、細菌学が創成期から実学であったことを象徴するルイ パスツール先生と秦 佐八郎先生(第三高等中学校医学部(現 岡山大学医学部)卒業)の肖像が描かれています。ポスター全体として、本学会の標語「細菌との闘い、細菌との共存、細菌の利用」を示しています。